銃を持たない銃士隊

 最近、NHKで流しているBBC制作のドラマ"http://www9.nhk.or.jp/kaigai/musketeers/"。最初に画像を見た時は西部劇かと思ったが、どうやらデュマの三銃士らしい。もちろんフィクションなんだからどんな服装をしていようと構わんのだが、こういう服装だと例えば武器なんかでもトンデモなものが出ているのかもしれないと思ってちょっと調べてみた。
 BBCのサイトにあるこちら"http://www.bbc.co.uk/programmes/p01s8jq5/p01s0pt2"のページにはアルケブスとピストルが掲載されている。まずアルケブスは短すぎないかと思ったのだが、こちら"http://www.vikingsword.com/vb/attachment.php?attachmentid=86957&stc=1"の画像などを見るとピストルではないが比較的銃身の短い銃も存在したようだ。またwheellockの銃もこちら"http://www.lisa90.org/lisa1/docs/armes%20005.JPG"のようなものが存在していたようで、ドラマのような銃が実在したかどうかだけを問題にするのなら、実在していた可能性はありそうだ。
 ただし、それをフランス銃士隊が持っていたかどうかとなると話は別。こちら"http://www.musee-armee.fr/programmation/expositions/detail/mousquetaires.html"ではアンヴァリッドの展示を見ることができるのだが、2枚目の写真を見ると銃士隊の持つ銃はどう見てもmatchlockであり、wheellockには見えない。こちらの記事"http://www.lemondededartagnan.fr/SITE/FRA/mousquetaires_chap08.htm"でも、銃士隊が持っていた武器について「1657年になっても彼らはなお火縄式のマスケットを使っていた」と述べている。
 それを裏付けるのはJournal d'un Voyage à Paris en 1657-1658"https://archive.org/details/bub_gb_SDnn_m6xTf0C"内の記述。1月19日の記録に「サン=タントワーヌ門から護衛である120人の新たな銃士隊とともに国王が入城する」のを見たと書かれているのだが、そこでは彼らが「マスケットと、馬の耳の間にある項革"http://www.geocities.jp/sana_ueda/scrap5.gif"に取り付けた火縄を持っていた」ことが指摘されている(p50)。
 文中に出てくるmescheが火縄を意味するmècheの古い表記であることはこちら"https://en.wiktionary.org/wiki/m%C3%A8che"を、またtestièreがtêtière"https://www.cheval.ws/images/articles/id550.jpg"の古い表記であることはこちら"http://encyclopedie_universelle.fracademic.com/72227/t%C3%AAti%C3%A8re"を参照。三銃士が舞台としている17世紀前半の銃士たちは、本来ならmatchlockのマスケットを持つべきなのである。
 もっともこれはドラマの問題というよりは原作の問題でもある。こちら"http://www.ox.ac.uk/news/arts-blog/are-three-musketeers-allergic-muskets"ではデュマの原作でいかにマスケットがないがしろにされているかを詳細に指摘。ダルタニャンたちは剣ばかりを使ってほとんどマスケットを使用せず、最後の方になってようやく「カードとダイスが置いてある太鼓の隣にまとめてあったマスケット」の存在を記していたほど。原作に忠実なら、むしろ銃は出てこない方が正しいらしい。

 ちなみに剣ではなく銃が出てきたとしても、matchlockがないがしろにされるのは三銃士映像化における伝統のようなものだ。2011年の映画では主役たちはwheellockを使い、matchlockは単に「兵士たち」が使っているに過ぎない"http://www.imfdb.org/wiki/The_Three_Musketeers_(2011)"。2001年の映画ではそもそもmatchlockが出てこないようだ"http://www.imfdb.org/wiki/The_Musketeer"し、1998年の「仮面の男」では銃士隊と戦う相手が使用している"http://www.imfdb.org/wiki/The_Man_in_the_Iron_Mask"。
 三銃士映画で主役たちがきちんとmatchlockのマスケットを持っていたのは、実に1974年制作の映画"http://www.imfdb.org/wiki/The_Four_Musketeers"まで遡ることになる。いやまあダルタニャンの娘を主役にした2004年のドラマ"http://www.imfdb.org/wiki/The_Lady_Musketeer"では銃士隊がmatchlockを使っている場面があるらしいんだが、これを三銃士映画に入れるべきかどうかは微妙。
 逆にやたらと優遇されているのはwheellockだ。金持ちの武器だからか、あるいは単に見た目がすっきりしているのが映像的に好まれるのか。理由は分からないが、映像作品についてはMusketeersというよりWheellockersとでも呼んだ方がいいかもしれない。
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コメント

No title

あまね
おひさしぶりです。このドラマについては私もいろいろと突っ込みながらも楽しんでいた口ですが、こちらで突っ込むとそうなりますか。まぁ(特に日本では)『マスケット銃』というのは広義では前装球弾式のクラシックな長銃すべてを指す言葉になってしまってますからある程度は致し方ないかと(それでも銃士隊が使っていたマスケットが火縄式だというのは動かしがたい事実ですが)。ポルトスが黒人との混血になってたり(キャラクターとしてのポルトスのモデルがデュマの父親であることに典拠?)、結構『わかっててやってる』感はあるんですが、ルイ14世の父親をアラミスにしてしまったのにはさすがに吃驚しました。アラミスの本名をジューリオ・マッツァリーノにでもするつもりなんですかね(苦笑)。

No title

desaixjp
ルイ14世の父親は実は、という展開はフィクションではよく見かけるので、私はまたかとしか思いませんでした。それ以外については、そもそも西部劇ファッションでドンパチやっているドラマですから、気にしたら負けかと。
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