この2つの数値は見事なまでに対照的な動きを見せている。「格差」が上向く時は「幸福」が低下し、逆に「幸福」が上向くときは「格差」が下向いている。20世紀初頭は格差が極度に広がった一方で人々の幸福はどん底にあった。しかし1920年頃からこの流れは逆転し、半世紀後の1970年頃までは格差を縮め幸福が増す時代が続いた。それが逆転した1970年から半世紀後が2020年。かつての「金ぴか時代」が再来しているというのがTurchinの指摘だ。
サイクルをもたらす要因の1つは労働人口。労働人口が増えてくると労働市場で供給が強まり、労働価格(つまり賃金)が下がる。そしてそれが逆流すると(中世英国の場合は黒死病などが原因となった)逆に労働の売り手市場が到来し、賃金は上がり大衆の「幸福」が増す。賃金が低い時期は穀物などカロリー密度の高い食事が中心だったのが、賃金が高くなると肉や野菜といった食事が増える現象が過去にも見られるらしい。
労働賃金が低下すると、それだけ資本側の取り分が増すことになる。社会のエリート層の収入は増え、「格差」は拡大する。加えてエリート全体の収入が増えるためエリートになる人数も増大する。進取の気性に富んだ、熱心に働いた、あるいは単に運が良かった者が新たにエリートとなり、百万長者の数自体が増える。19世紀末の金ぴか時代も、現代の「第2の金ぴか時代」においても同じだ。だがこれはトラブルの原因となる。
だがこうした流れはやがてエリート間の紛争に伴う政治の不安定を生み出す。時にそれは英国のばら戦争やフランスのフロンドの乱のような内紛につながる。だがそうした政治の不安定が体制をひっくり返す恐れが出てくると、エリートたちは妥協に向かうこともある。1920年頃の米国はそうだった。ウエストバージニア炭鉱戦争と呼ばれる労働争議では、武装した鉱夫1万人と行政側を含めた3000人が5日間にわたって戦闘を繰り広げる事態に至った"
https://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_Blair_Mountain"。南北戦争を除くと最も組織的な蜂起とされるこの紛争を経た後で、米国は金ぴか時代から舵を切る。
政府はまず移民の受け入れを事実上停止。また経済界に圧力をかけて労働者の賃金上昇に力を注ぐよう要請した。大恐慌時代にもこの方針は堅持され、最終的にはニューディール連合という形でこの政治的な対応が組織化された。成長の果実を大衆に振り向ける一方で彼らが革命に向かうのを阻止し、政治的な協力関係と安定とを手に入れた。米国は大恐慌と第二次大戦、そしてソヴィエト相手の冷戦に対し、一丸となって対応することに成功する。
20世紀の米国は成功した事例だが、失敗に終わった例もある。一つはもちろんフランス革命、またロシア革命もこの中に入れていいだろう。貴族たちは大衆との妥協を是とせず、結果として体制そのものの転覆を招いた。協力関係をもたらす対外的な脅威が消えると、こうした利己主義がはびこりやすい面もあるようだ。ソ連の停滞と最終的な崩壊は、米国内におけるエリートと大衆の協力関係を終わらせ、大衆の不幸とエリート間の競争激化をもたらしている。以上がTurchinの考えだ。
これらの見解がどこまで正しいかは分からないが、将来を見るうえで一つ参考になる見方ではある。トランプのようなワナビーが大衆の不幸を利用して権力闘争を行い、最後には革命まで至るのか。それともどこかで大衆と妥協してエリートの税率を上げ、労働需要の減少を避けるためTPPを拒否するというサンダース的な政策によって現体制のまま安定と調和への道を探るのか。そう考えながら見ると今年の大統領選はさらに楽しめそうだ。
コメント