ナポレオン漫画最新号ではのっけからアスペルン=エスリングでランヌの脚が吹っ飛ばされかけている。あれおかしいな、確か先月はまだベルティエが叱られていたところで、その後にアーベンスベルクやエックミュールの戦いがあり、そして舞台をウィーン近くまで移してそれからようやくアスペルンのはずだが、と思っていたらこの漫画でたまにある時間飛ばしだった。最近、かなり話が加速するようになってきたが、さすがにここまで一気に進めるつもりはなかったようだ。
Gachotの名を見た時点でこの話は根拠のない嘘であると判断する。まあGachotはランヌ自身の発言としてチンギス・カンやモンゴル人といった単語を出しているわけではなく、あくまで地の文で触れているだけだから、まだましだとは言える。それ以降の著者になると堂々とランヌの発言にしてしまっているのだが、それはさすがに拙い。
「これは政治的戦争だと言われている。私には分からないが、これが反人間的で反理性的な戦争なのは事実だ。なぜなら王冠を征服するにはまずそれを守っている国民を殺す必要があり、それはつらく長いものだ。人間の信念をこのように攻撃するのは大きな間違いであり大きな害悪である。良心は力に勝り、力のように摩耗することもないため、これは決して終わることのない戦争になる」
p274
このフレーズは、この伝記以前の文献には見当たらない。だからこれまたどこまで正確な話なのか裏付けもできない。それに紹介した2つの文章は、事実だとしてもナポレオンの前で話した言葉ではなく、つまり漫画のあの場面に当てはめられるものでもない。
ランヌが「皇帝に話した」とされる文章としては、同じ伝記に次のようなものが紹介されている。「私は戦争を恐れており、そのことを皇帝に話した。戦争の最初の騒音は私をおののかせるが、最初の一歩を踏み出すや私は仕事のことだけを考える(中略)。あの連隊(その時、建物の窓の下を通り過ぎていた)の軍楽が聞こえるだろう。そう、あれは兵たちの目をくらませ、気づかせることなく死へと導くためのものだ! 全ての士官たちは戦場で、あたかも結婚式にいるかのように兵士たちの目に映らなければならない」(p273)
しかしこのフレーズも「チンギス・カン」や「モンゴル人」とは別物と見るべきだろう。ナポレオンが繰り広げる戦争そのものに対する嫌悪感を述べたものではなく、あくまで戦争一般に対するランヌの感情を表現したものに過ぎない。Chrisawnによればランヌは息子に対して「決して恐れたことがないというヤツは誰であれ嘘つきであり、愚か者であり、下種野郎だ」("
https://books.google.co.jp/books?id=k0NDkb1RNOIC" p3)とも言ったそうだが、これも個別の戦争に対する見解ではない。
「ランヌ元帥はアスペルンの戦いで致命傷を負った。フランス軍の公報は彼が言ったとされる言葉を報告している。以下はナポレオン自身が私に言ったことだ。『そなたは私がランヌの口に言わせた文章を読んだだろうが、彼はそんなこと考えもしなかっただろう! 彼は私の名を口にし、それを私に言い、そして私はすぐ彼が死んだと宣言した。ランヌは心底から私を憎んでいた。無神論者が死の瞬間に神を呼ぶように、彼は私を名づけた。ランヌは私を名づけ、私は彼がはっきり死んだのだとみなした』」
p284
本当にナポレオンがこんなことを言ったのかは分からない。だがこれが事実なら、スペインから駆けつけた時ではなく、死ぬ最後の瞬間に、ランヌはナポレオンを非難したことになる。
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