予想と現実

 Reginald G. Burtonの書いた"From Boulogne to Austerlitz"読了。1912年に出版された本で、こちらもページ数が105とあっという間に読める本だ。今で言ったらオスプレイの「メン・アット・アームズ」シリーズみたいなもんだろう。
 中身についてだが正直大したことは書いていない。大半はナポレオン伝説の繰り返しであり、これを読むくらいなら最近出たGoetzやCastleのアウステルリッツ本を読んだ方がはるかに勉強になる。各軍団の移動についてはかなり詳しく書いてあるが、それ以外に見るべきところはない。
 むしろこの本が出版された時代背景を考えながら読んだ方が色々な意味で楽しめる。著者は戦役全体を振り返る部分で騎兵について以下のように述べているのだ。

「騎兵には依然として未来があり、次の欧州戦争におけるその行動はアウステルリッツと同様に輝かしいものになるであろうと言っても差し支えないだろう」
Burton "From Boulogne to Austerlitz" p97

 結果はもちろん差し支えありすぎだった。この本が出た2年後から始まった第一次大戦では騎兵は何の役にも立たず、それどころか戦争後半になると装甲部隊が登場して騎兵の地位を奪っていった。いや、そもそもこの本が出版される7年前に行われた日露戦争において日本の騎兵は戦闘時には馬から下りて機関銃を撃つようになっていたし、もっと前の南北戦争の頃から騎兵は偵察任務主体で突撃はほとんど行わないようになっていたのである。著者はそうした過去の事実を全く踏まえることなく、アウステルリッツの100年以上後になってもなお騎兵の栄光を夢想していたのだ。
 もちろんこれはBurtonだけの問題ではあるまい。ナポレオン戦争時代と同じ発想で派手な軍服をまとったまま攻勢に出たフランス軍は大量の死者を出したし、ソンムでは英軍が似たようなことをやらかした。よく「歴史に学べ」などという意見があるが、人間はそもそも歴史に学ばない。人間が学ぶのは体験からである。自ら痛い思いをしたことでなければ、本当に「学ぶ」ことは無理なのだろう。

スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック