魔法の杖が消えるとき

 Chip Kellyがクビになった。ネットを見るとKelly the GMの失敗がKelly the Coachの職を奪ったとの解釈が多い"http://www.sbnation.com/nfl/2015/12/30/10688004/eagles-fire-chip-kelly-coach-general-manager"。HCとしては今なお有能だが、GMとして拙い判断を下したことが原因でチームを去らざるを得なくなったというわけだ。
 GMとしての評価についてはここでは言及しないが、さて果たして本当にHCとしてのKellyの能力は今もまだ高いのだろうか。以下のデータはKelly率いるチームの年ごとの成績だ。左からパスのNY/A、ランのY/A、としてオフェンス全体のYards per Playである。

2013 7.42 5.13 6.33
2014 6.67 4.20 5.63
2015 6.07 3.89 5.20

 見事なまでに右肩下がりだ。これを見てすぐ思い浮かぶのは「Kellyのオフェンスは3年で通用しなくなったのでは」という疑問である。NFLのディフェンスは当初、彼の突飛なオフェンスに惑わされはしたものの、3年の間にきちんと対処しそれを抑え込めるようになった。その可能性があるんじゃないだろうか。
 特に成績とのつながりが強いパスオフェンスの低迷が問題だ。私は以前、Chip Kellyが「魔法の杖」を持っているのではないかと指摘したことがある"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/55240287.html"。QBの成績を本来の能力以上に高く見せることができる能力を彼がかつて持っていたことはおそらく間違いない。でもそれは今もあるのだろうか。
 まず最初の先発だったVickだ。彼のAtlanta時代のANY/A+は95。Philadelphiaでこれまた魔法の杖を持っているReidの下にいた時は107、Kellyの下では(母数が少ないのであまり信用できないが)113となり、その後は(これも母数が少ないが)66となっている。次はFolesだが、Reidの下にいた2012年に90だったのが、Kellyの1年目は驚愕の143となった。最初のKellyが素晴らしい「杖」の持ち主だったのは確かだろう。
 だが2年目はどうだったか。FolesのANY/A+は98へと急落した。St.Louisに移った今年は77まで落ち込んでいるのでそれよりはマシなんだが、初年度の輝きが完全に失われたのは間違いない。その2年目にFolesをバックアップしたSanchezは101とJets時代(87)より上回っているが、Vickや1年目のFolesに比べれば水準が低く、かろうじて平均を越えた程度だ。
 そして今年。St.LouisからやってきたBradfordのANY/A+は92にとどまった。彼の4年間に及ぶSt.Louis時代の成績(92)と全く同じである。そして控えのSanchezは(母数は少ないが)76とJets時代を下回っている。今年のPhiladelphiaの攻撃成績が落ちているのは選手の入れ替えだけが理由だとは思えない。かつて輝いていた「魔法の杖」が、完全に姿を消してしまったことが大きく影響している。

 なぜ「魔法の杖」は消えてしまったのか。同様に魔法の杖を持っているAndy Reidと比べてみよう。Reidの下で活躍した主な選手としてはPhiladelphia時代のMcNabb、そして現在のKansas CityでQBを務めているAlex Smithだ。McNabbのANY/A+はPhiladelphiaで107、その後は94。AlexはSan Francisco時代が92、KCに来てからは102だ。いずれにおいてもReidの下にいた方が成績がいい。
 しかし彼ら2人のReid時代についてもう少し詳しく中身を見ると、実は結構対照的であることが分かる。McNabbはComp%+が98と平均以下だったのに対しAlexは106とここが強い。逆にY/A+はMcNabbの102に対しAlexは95だ。GunslingerなMcNabb、Captain Checkdownと揶揄されるAlexの特徴が見事に表れている数字だが、重要なのはこの対照的なQBのどちらも活躍させることができるReidの手腕である。
 一方のKellyはシステムで成功し、そのシステムをNFLにも持ち込もうとしたHCだ。彼はシステムに合うQBを求めて次々と選手を交代。結果、初期に使われたFolesはあらゆる点で高い成績を残せたが、他チームが彼のシステムを解析し対処するようになってから使われたSanchezはインターセプト率やサック率でリーグ平均を下回るようになり、完全に読まれるようになった後で使われたBradfordはY/A+という重要な指標自体がリーグ平均以下になってしまった。
 KellyがダメQBからいいQBへとレベルアップを図ってきたことは否定できない。Folesは彼の目新しいシステムのおかげでいい成績を残せたが、魔法の杖がない時の彼はANY/A+77という酷いQBだ。Sanchezも魔法の杖がなければ87でしかなく、92のBradfordがもっともまともなQBであることは事実。でも彼もまたリーグ平均以下のQBだ。
 そして平均以下のQBに平均以上の活躍を長く続けさせるには、システムに頼ったやり方ではおそらくダメだ。システム先行ではなく、ReidのようにQBの強みに合わせてシステムを構築する方法でなければ、魔法の杖はやがて機能しなくなりただの棒切れになってしまうのだろう。少なくともNFLでは、いずれ研究され対処される「システム」よりも、個々の選手の強みを発揮させることの方が大事なんじゃなかろうか。

 大学で成功したHCが意気揚々とNFLに乗り込み、数年後に尾羽打ち枯らして消えていく姿は何度も見てきた。特にKellyのようなシステム重視のHCは、敵に対処されるようになってからが難しい。Kellyは選手を入れ替えるのではなく、自分の考えを変えるべきだったんじゃないだろうか。
 大学はまずチーム数が多く、それがコーチングスタッフや選手のタレントレベルを分散させている。有能なコーチ、有能は選手の数は限られているため、どうしてもレベルの落ちるコーチが率いるチームが存在し、同一チーム内でもレベルの落ちる選手が存在する。しかも選手は長くて4年で入れ替わる。大学で成功する「システム」とは、そうした環境を前提としたシステムだ。
 目新しいシステムに対処する能力に欠けるコーチが存在するため、大学ではシステムは成功しやすい。だがNFLではコーチの水準が高く、対処能力も十分ある。そしてまた大学と違って粒ぞろいの選手がいる。大学では不可能な「選手個人の能力に頼った対処法」でシステムを破ることも可能になる。要するに、環境が違うのに同じ戦略で行こうとすれば痛い目に遭うってことだ。傲慢で他人の意見を聞かないタイプのHCは、そこで失敗する。
 KellyはまだNFLでコーチを続けたいと考えているそうだ"http://www.foxsports.com/nfl/story/jay-glazer-exclusive-interview-fired-eagles-coach-chip-kelly-absolutely-want-coach-in-nfl-122915"。ならば次に仕事を得た際には自らが変わることを考えるべきなんだろう。過去にはJimmy Johnsonのように大学でもプロでも成功したコーチがいる。過去の成功体験にとらわれず、例えばReidのようにQBに合わせてシステムをつくるように発想を変えれば、彼がまたOffensive Guruと呼ばれるようになる可能性はある。

 結論、Andy Reidは優秀なHCだ。あまり評価されてないけど。
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