内婚制

 以前、エマニュエル・トッドの本を元にいろいろと書いたことがあった。その中で、トッドの書いた論文に基づく家族構造の歴史的変遷について「外婚制と内婚制の違いはいつごろ生まれ、どちらが古いのか」といった疑問を呈したことがある"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/54244187.html"。特に内婚制については不思議なことが多い。
 内婚制"https://fr.wikipedia.org/wiki/Famille_communautaire_endogame"が多いのは中東や北アフリカなど、つまり基本的にイスラム圏だ。実のところ、クルアーンによるといとこは単に結婚してはならない相手の範疇に入っていないだけ"http://www2.dokidoki.ne.jp/racket/sura004_jp.html"であり、いとこ婚を積極的に認めるような文言にはなっていない。だが、いとこ婚とイスラムとの間に相関性を主張する向きもあるそうだ。
 中東のいとこ婚(またいとこを含む)に関するwikipedia"https://en.wikipedia.org/wiki/Cousin_marriage_in_the_Middle_East"を見ると、内婚制も国や共同体によって違いが見られるのは事実だが、それがかなり強烈な習慣として根付いていることは分かる。なにせアラビアではある女性のいとこに許可を得ることなく彼女と結婚した男は命の危険を冒すことになるそうだし、ヨルダンでは許可なく女性が結婚しそうな場合、いとこがその女性を奪って自宅に閉じ込めても合法だとか。おまけにこのヨルダンの風習はカトリックのベドウィンの間でも尊重されているらしい。
 イラクではこのルールに従わない女性はいとこに殺されることがあるそうだし、エジプトでも高い比率でいとこ婚が見られるとか(キリスト教徒含む)。イランでは1970年ごろにかけていとこ婚の比率が上がる現象が見られたほか、クルドなどにもある。シリアでは上流階級や裕福な商人階級でこの風習が見られるそうなので、おそらく財産保護という面もあるのだろう。
 いずれにせよ中東から北アフリカにかけての地域でいとこ婚の比率が異様に高いのは間違いない"https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7b/Global_prevalence_of_consanguinity.svg"。これが数%レベルなら守らなければならないほどの財産を抱えた階層の間で行われていると解釈することもできるだろうが、10%超(どころか国によっては50%超)の水準になると財産問題だけで説明するのは無理があるだろう。
 そのためか、実際には慣習や名誉といったものの方がこうした風習が残る要因として大きいと考えられているそうだ。だがそうした習慣が生まれた根拠は不明だ。何らかの利点があったからそれが習慣になったと考えたいところだが、大して財産など持たない階層にまで広がっているメカニズムが分からない。
 ただ、子供に与える影響については、慣習が根付く際に足を引っ張るほどのリスクはないようだ。こちらの記事"http://www.nytimes.com/2009/11/26/garden/26cousins.html?pagewanted=1&_r=2&;"によればいとこ婚による子供の遺伝的障害発生リスクは、親族でない夫婦の間でのリスク(3~4%)よりほんの1.7~2.8%ほどしか高くないという。40代初頭の女性が出産する際と同じほどのリスクだそうだ。
 おまけに最近は事前にそうしたリスクが調べられるし、カタールでは事前のスクリーニングを始めたそうだ"http://www.thenational.ae/news/world/middle-east/qatar-starts-premarital-genetic-screening-for-all"。それによれば「この地では問題はいとこ婚ではなく、病気を避けること」と認識されているらしい。かなり強力な風習、習慣であることが分かる。どうしてこの慣習がここまで定着したのか、やはり気になる。

 もう一つ気になるのは、歴史との関連だ。エジプトでは古代ローマが支配していた時代に行われた戸籍調査で、実に15~20%の結婚が兄弟姉妹間のものであったことが分かっている("https://books.google.co.jp/books?id=AaM0AAAAQBAJ" p75)。ペルシャではエジプトほど明確な記録は残っていないが、ゾロアスター教が近親婚を容認どころか推奨しており、ペルシャ外部の記録にもそれが行われていた様子が残っている"http://www.iranicaonline.org/articles/marriage-next-of-kin"。
 もちろんこれらの習慣は歴史のある段階で一般には消えていったと思われるが、そうした記録が残っているのがエジプトやペルシャ、つまり中東・北アフリカであることが気になる。過去のこうした習慣は、現在定着しているイスラム圏におけるいとこ婚の広がりと、何か関連はあるのだろうか。それとも両者は全く別の淵源から出てきたものなのか。
 歴史同様、地理との関連も興味があるところだ。乾燥地帯が広がり、比較的人口密度が薄い"http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/9050.gif"これらの地域特性と、この習慣との間には何か関係があるのか。ChaseがFirearms"http://www.cambridge.org/us/academic/subjects/history/regional-history-1500/firearms-global-history-1700"の中で同様に乾燥地帯と定義しているモンゴル周辺ではこうした習慣を聞かないが、両者の間にはそうした違いをもたらす何かがあったのか。疑問は尽きない。
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