スノーボールアース

 全球凍結という現象が生物の進化に大きな影響を与えた、という話がある("http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2007/2007_05_0028.pdf" p33-34)。全球凍結が起きたのは古生代の初期と末期なのだが、前者の後に真核生物が、後者の後に多細胞生物が生まれたという話だ。実際には古生代末期の全球凍結は複数回(英語wikipedia"https://en.wikipedia.org/wiki/Snowball_Earth"によれば4回ほど)あったようだ。
 多細胞生物については日本語wikipedia"https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E7%B4%B0%E8%83%9E%E7%94%9F%E7%89%A9"と英語"https://en.wikipedia.org/wiki/Multicellular_organism"とで誕生時期について全く異なることが書かれている。前者によれば「化石の記録によると最初の多細胞生物は約10億年前に誕生した」ことになるが、論拠は不明。後者は単純な多細胞生物は30~35億年前に生まれたが、複雑なものはドウシャンツオで見つかった6億年前の化石だとしている。
 だがこちらの記事"http://phys.org/news/2010-08-discovery-earliest-animal-life-fossil.html"が正しいなら、カイメンのような生物がもう少し前、6億5000万年前に既に生まれていたことになる。これが正しいのなら多細胞生物が生まれたのは最後の全球凍結後ではなくその前、複数回あった全球凍結の合間に誕生したことになる。
 こちら"http://blog.livedoor.jp/science_q/archives/1848132.html"によれば分子的な分析でカイメンの起源は7億4000万年前まで遡るという。もしその時に既にカイメンが多細胞生物化していたのであれば、古生代後半に複数回あった全球凍結のうち、最初のものが終わった時には多細胞生物が生まれていた計算になる。

 複雑な多細胞生物の誕生に寄与したのは酸素濃度の上昇だという。こちら"http://www.snowballearth.org/when.html"の図を見ると分かるが、古生代初期の全球凍結後にそれまでほぼゼロだった酸素濃度が1%に上昇。この後に真核生物が生まれた。続いて古生代末期の(複数回の)全球凍結を経てこの濃度は20%強まで上がり、今度は複雑な多細胞生物が登場、という流れになる。
 こちら"http://www.k.u-tokyo.ac.jp/news/20111011press.html"によれば全球凍結が終わった後に急激に大陸が風化し、大量の栄養素が海に提供されたことにより、光合成細菌が大繁殖して酸素濃度を一気に高めたのだそうだ。理屈はともかく全球凍結と酸素濃度の上昇に関係があったのはおそらく事実なんだろう。そして、複雑な多細胞生物の登場が言われているように6億年かその少し前くらいだとしたら、確かに酸素濃度と関連があったように考えたくなる。
 一方でよく分からない点もある。こちら"http://public.wsu.edu/~lange-m/Documnets/Teaching2011/Popper2011.pdf"によると複雑な多細胞生物が進化した例はこれまで6つしかない。動物、菌類、褐藻、紅藻、緑藻、及び陸上植物だ(p571)。真核生物の大分類"http://www.paru.cas.cz/docs/documents/93-Adl-JEM-2012.pdf"によれば、このうち動物と菌類はオピストコンタに、紅藻、緑藻、陸上植物はアーケプラスティダに、そして褐藻はSARに所属することになる。他の大分類、具体的にはエクスカヴァータとアメーボゾアに属する複雑な多細胞生物は今のところいない。
 なぜ特定の種だけで多細胞化が進み、他の種では進まなかったのか。それと全球凍結とは何か関係していたのか。そのあたりが気になる。例えば全球凍結の際に多細胞化した生物の先祖のみが特殊な環境(火山の周囲や一部だけ凍結しなかった地域など)に残るといった現象でも起きていたのだとしたら面白いと思うが、そうした研究があるかどうか分からない。

 全球凍結でも生物は絶滅しなかったのだから、彼らが生き残れる環境があったのは事実だろう。上で触れた火山の周辺などがその一例だと見られている。つまりそこは生物を次の世代へ運ぶ全球凍結版「ノアの箱舟」だったのかもしれない。そして、例えばノアの箱舟が複数あり、そのうちの一部は全球凍結の際に「沈んで」(つまり火山活動が終わって氷に覆われて)しまったと考えてみたらどうだろうか。後に多細胞化への道を歩んだ連中は、運よく沈まなかった箱舟に乗っていただけだとしたら、それはなかなかに興味深い。
 そして、沈んだと思っていた箱舟が実はどこかで生き延び、そこに乗り込んでいた生物が独自に多細胞化への道を歩んでいたとしたら。SFの題材になるかもしれない。
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