生食

 飲食店での豚の生食提供が禁止させるようになるという。これまでも厚労省が注意喚起をしてきた"http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syouhisya/121004/index.html"が、ついに立法措置に踏み切るらしい。ネットでも結構反応を集めている"http://b.hatena.ne.jp/topic/300612615370293421"。
 個人的には豚を生で食う人がそんなにいるとは思わなかったので驚いている。確か牛のレバー生食が禁止された"http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syouhisya/110720/"頃に「次は豚が売れるんではないか」と冗談交じりに言われていたように記憶しているが、どうやら本当に売れていたのだろう。リスクを踏まえて法規制もやむなしと判断したのだと思われる。

 それにしても動物の内臓を生で食うってのは何時頃から始まった風習なのだろうか。肉の部分なら海の魚では以前からあったし、哺乳類でも馬刺しはそれなりに昔から存在したといわれている。牛肉でもレアやミディアムといった焼き方は昔からあったはず。でも内臓部分については少なくとも個人的にはあまり昔からあった記憶はない。
 こちら"http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20120404/1333547806"では「おそらく、平成10年ごろには、肉の生食は今ほどメジャーなものではなかったと思われます」と指摘している。この「平成10年」(1998年)とは厚生省が「生食用食肉の衛生基準」を設定した年であり、そのきっかけは2年前のレバ刺しによる食中毒事故だったそうだ。
 となると90年代まではマイナーだったレバ刺しが、その後になって広まり一般化していったと考えられる。そのあたりを何か裏付ける調査方法はないのだろうか。これが案外難しい。2004年以降であれば、例えばgoogle trends"https://www.google.co.jp/trends/"あたりで調べる手がある。実際にはネットで「レバ刺し」を検索する人は2012年の牛のレバ刺し禁止の時を除いてほとんどいなかったため上手く調査できないのだが、それでも調べること自体は可能だ。
 でも90年代以前になるとネットで調べてもデータは不十分。電子ではなく紙の時代になるため、何らかの方法で紙のデータをすくい上げていかなければならない。そこでgoogle booksを使う。数が多いとはいえないが、ネットが普及する前の紙媒体も収録されているため、レバ刺しという言葉をどこまで遡ることができるかを調べる一助になる。

 やってみると圧倒的に2000年以降の書物に登場する例が多い。それ以前は本当に数えるほどしかないのだ。探した限り、最も古いものでも1986年に出版された2冊の本("https://books.google.co.jp/books?id=tcEJAQAAMAAJ"のp124と"https://books.google.co.jp/books?id=k7c5AAAAIAAJ"のp11)しかない。レバ刺しによる食中毒が発生する10年前だ。
 次に新しいものを探すと90年代になる。これもまた数が少ないうえ、中には「レバ刺し」ではなく「レバー刺し」"https://books.google.co.jp/books?id=vQYKAQAAMAAJ"と表記が異なるものも混じっている。おそらく90年代まではまだ一部でしか提供されない、マイナーな料理だったのだろう。レバ刺しによる食中毒の件数がさして多くないのは、そもそも食べる機会自体が少なかったためかもしれない。
 同じ生食である「馬刺し」と比べると、レバ刺しが随分新しい料理であることも分かる。馬刺しの場合は遡れば1970年の書物に登場する("https://books.google.co.jp/books?id=lu5CAQAAIAAJ"のp184)し、それ以外にもこちら"https://books.google.co.jp/books?id=UYUNAQAAMAAJ"やこちら"https://books.google.co.jp/books?id=pMoSAAAAMAAJ"、これ"https://books.google.co.jp/books?id=xBlCAQAAIAAJ"など、70年代だけで複数の書物に登場してくる。
 一部には馬刺しの歴史は加藤清正まで遡るとの主張がある"http://banikuya.jp/knowledge/history/"。これがどこまで事実であるかは不明だが、フランス革命の年(1789年)に創業したとされる馬刺専門店"http://service.suganoya.com/kodawari/"まであるので、それなりに古いものと思われる。
 それに比べれば、レバ刺しは日本では決して古いものでもなさそうだ。どうやら生食文化を理由にレバ刺しの禁止反対を訴えるのはちと根拠が弱そう。食うのは個人の自由だとしても、治療が必要になれば保険という形で公共の金が使われることになるので、ここは禁止もやむを得ないか。
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