Martyball?

 Schottenheimerを擁護してみよう。今回の敗戦で彼に対する批判は大きく二つ。第1Qにやった4th and 11でのgo for itと、McCreeがインターセプト後にやらかした明白なファンブルに対してチャレンジしてタイムアウトを失ったことだ。
 後者については確かに拙かったというしかない。敢えて理屈をつけるのなら、積極的なプレイを試みて失敗したMcCree及びチームの士気が下がらないようにする狙いがあったと説明することはできる。また、あの時点ではSan Diegoはまだ8点リードした状態。ゲームの最終局面でSDがタイムアウトを必要とするケースというのはNew Englandがリードしている場合しかなく、そのためにNEはまずあのドライブを完結させ、2ポイントに成功し、なおかつもう一回ドライブして点数を取らなければならなかった。もちろん、それでもあれだけあからさまなファンブルにチャレンジするのは判断ミスといわざるを得ないが、それがゲーム終盤で大きな意味を持ってくるからいけないというのは後知恵ではなかろうか。

 もう一つは第1Qのgo for it。これについてはFootball Commentaryに載っているgo for itテーブル"http://www.footballcommentary.com/goforittables.htm"を使って分析してみよう。ゲームは前半、9分39秒経過した時間で場所はNEの30ヤード地点だ。従ってここで見るのは"Opponent's 40 yard line, first half, we will kick off to start the second half."のチャートになる。
 前半残り20分21秒、同点の場合の数値は0.42になっている。これは42%の可能性があるのならgo for itをやるべきだという指標だ。ではSDが11ヤードの距離を乗り越えてfirst downを取れる確率はどのくらいだろう。ここでは普通に考えてパスプレイを選択したとする。Riversのこの試合の成績は14/32-230。パス成功率は43.8%で成功した時の平均獲得ヤードは16.4ヤード。おお、こりゃgo for itした方がいいという結論になるではないか。
 と断言するのはまだ早い。上のRiversの成績にはサックが含まれていないからだ。また、ゲーム後半に彼がやったスパイク2回はパス成績から取り除いた方がいいだろう。サックもパス試投に含め、サックでロスした距離を除くとRiversの成績は14/33-204。パス成功率は42.4%で平均ヤードは14.6ヤード。やっぱりgo for itをやるべき局面だったということになる。

 ただ、上のgo for itテーブルはあくまで「パントかgo for itか」を二者択一で選ぶ場合のもの。実際にMartyがgo for itを命じたのはNE陣30ヤード。彼の前にあったのは「FGかgo for itか」という中身の異なる二者択一だったのである。
 ではまずFGを蹴る場合を考えよう。Football Outsidersのこちらのページ"http://www.footballoutsiders.com/2004/01/05/ramblings/dvoa-rankings/124/"を見ると、NE陣30ヤードから48ヤードのFGを蹴る場合、得点期待値は約1.8点となっていることが分かる(リーグ平均でFG成功率が60%程度という意味)。逆に失敗した場合は8ヤード分の陣地を失う。ある説ではフィールド1ヤードは0.08点に相当するという指摘があるので、それで計算すると0.64点の損失だ。あわせてFG期待得点は1.544点になる。
 逆にgo for itをやったらどうなるだろう。上のRiversの成績から考えるなら42.4%でfirst down更新、9.1%で平均8.7ヤードのサック、残る48.5%はパス失敗でNE30ヤード地点で攻守交替だ。最後のケースでは陣地を動かないので得点期待値はゼロ。サックを喰らった場合は0.696点分の損失となるのでその期待値はマイナス0.063点。問題は最後のfirst downを更新したケースだ。
 first down更新後に全く進めず、FGを蹴ることになったとしよう。平均通りならRiversはNE陣15.4ヤードまで進んでいるはずなので、FGの距離は33ヤード程度となる。Football Outsidersのグラフを見ると期待値は2.7点程度まで上がってくるのだ。一方、さらにそれからダウン更新をしてTDまでたどり着く可能性も残っている。今シーズンのSDのレッドゾーンオフェンスを見るとTD確率は67.7%でリーグトップ(参照"http://www.usatoday.com/sports/nfl/redzone.htm")。この場合、期待値はほぼ7点と言っていいだろう。
 結果としてNE陣30ヤード時点での期待値は(1)48.5%のダウン更新失敗=期待値ゼロ(2)9.1%のサック=期待値マイナス0.063(3)42.4%のダウン更新(a)うち67.7%はTD達成=期待値2.01(b)残る32.3%のうち(イ)90%は近距離でのFG成功=期待値0.333(ロ)10%は近距離でのFG失敗=期待値ほぼゼロ(僅かにマイナス)――の合計値、即ち2.28点となるのだ。FGを蹴った場合の期待値1.544に比べて0.7点以上、上回る。

 結論。Schottenheimerの第1Qにおけるgo for itは決して愚かな行為とは言い切れない。SDの高いレッドゾーンオフェンス力を考えれば、実は結構理に叶った作戦であるとも考えられるのだ。結果として失敗したから批判されているものの、やはりそれは後知恵に過ぎない。Schottenheimerは決して悪いHCではない。
 ……ツキに見放されたHCではあるが。

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