ドラフトの映画

 2015年のNFLドラフト真っ最中だが、ここで映画「ドラフト・デイ」"http://draft-movie.com/"の話を。私自身はこの映画を見ていないのだが、基本ネタバレ全開でいくのでよろしく。

 映画の大雑把な内容はwikipedia"http://en.wikipedia.org/wiki/Draft_Day"に書かれているのでそちらを参照してほしい。ここで調べるのは彼らのうち、誰が一連のドラフト権トレードで得をしたのか、である。
 調べる方法はいくつもある。例えば昔ながらのJimmy JohnsonのValue Chart"http://www.pro-football-reference.com/draft/draft_trade_value.htm"を利用する方法。あるいはPro-Football-ReferenceのApproximate Value"http://www.sports-reference.com/blog/approximate-value/"を使ってFootball Perspective"http://www.footballperspective.com/draft-value-chart/"が作った評価法を採用する手もある。さらにはMassey-Thalerの論文"http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=697121"をアップデートしたAdvanced Football Analyticsのデータ"http://www.advancedfootballanalytics.com/index.php/home/research/draft/244-what-s-the-real-value-of-a-draft-pick"も使えるだろう。
 そして、Advanced Football Analyticsではこの3種類をまとめて算出できるページもある"http://www.advancedfootballanalytics.com/index.php/home/tools/draft-trade-value-calculator"。ただしAVのデータはFootball Perspectiveが用意しているCalculator"http://www.footballperspective.com/introducing-the-nfl-draft-pick-value-calculator/"と異なる数字が出てくる(理由は不明)。いずれにせよ、これらのページを使えばドラフト権トレードの評価が出てくる。

 まずはJJのValue Chart。映画では最終的に主人公がGMを勤めるClevelandは2014、15、16年のドラフト2巡(14年はおそらく全体39位)と交換で14年のドラフト全体1位とPunt Returnerも入手している。15年と16年のドラフト順位は真ん中付近の16位及び17位だとして調べてみると、放出したのが1340ポイント、手に入れたのが3000ポイントで、1660ポイントという大幅なプラスとなる。さすがはケビン・コスナー、そこにしびれるあこがれるぅ。
 一方、コスナーにしてやられる側のSeattleは1巡1位とPRを失って、代わりに同6位を手に入れた形になっている。この場合は3000ポイントを放出して1600ポイントを入手、差額はマイナス1400ポイントだ。最後に脇役Jacksonvilleは1巡6位を手放して14、15、16年の2巡をゲット。1600ポイント放出の1340ポイントゲットで差額はマイナス260ポイント。つまりこの2チームを踏み台にしてClevelandが勝利したことになる。映画的にはこの解釈でいいのだろう。(表は左からチーム、放出したポイント、入手したポイント、ポイント差)

Cle 1340pt 3000pt +1660pt
Sea 3000pt 1600pt -1400pt
Jax 1600pt 1340pt  -260pt

 だがAVを使った解釈だと状況は変わる。まずClevelandだが放出したのは31.0、手に入れたのは34.6、差はプラス3.6だ。倍以上にポイントを膨らませていたJJのChartに比べると全然大したプラスではない。一方、Seattleは34.6を放り出して23.2を入手しているため、差はマイナス11.4となる。やはり大きなマイナスではあるが、価値をほぼ半減させたJJのChartより損害は小さい。
 しかし誰よりもこのトレードで大きく得をしたのは、脇役に過ぎなかったはずのJacksonvilleである。失ったものが23.2だったのに対し、手に入れたのは31.0、その差はプラス7.8だ。元のAV値から3割以上増やした形であり、まさにJacksonville大勝利、希望の未来へレディーゴー。

Cle 31.0AV 34.6AV  +3.6AV
Sea 34.6AV 23.2AV -11.4AV
Jax 23.4AV 31.0AV  +7.8AV

 さらにMassey-Thalerのシステムを使うと、様相がまた大きく変化する。この方法はベテランFAと比べ、ドラフトで同じレベルの活躍をする選手をどの程度少ないキャップヒットで雇用できるかを示すものだ。この方法でClevelandのトレードを分析すると、余剰利得71万5000ドルを手に入れた代わりに、699万1000ドルを失った格好になる。ドラフトで手に入れられるはずの価値を10分の1近くまで減らすトレードだったわけだ。
 一方Seattleは71万5000ドル(及びPR)を捨てて96万7000ドルを手に入れた計算だ。PRの生み出す余剰利得がどの程度かは分からないが、まあ普通に考えて大した額ではないだろう。そうなると一見して単に損しただけのように見えるSeattleが、実は割とフェアなトレードを行っていたことが分かる。wikipediaに書かれている「全体1位で選んだ時に行うより700万ドルは安く契約できる」という理屈通りだ。
 そしてJacksonvilleだが、もうお分かりだろう。彼らこそこのトレードの真の勝者だ。何しろ96万7000ドル分の余剰利得を放り出す一方で699万1000ドルの余剰利得を手に入れたのだ。このトレードによって彼らはドラフトの価値を7倍以上に膨らませているのである。まさに圧倒的ではないか我が軍は。

Cle 6991$K  715$K -6276$K
Sea  715$K  967$K  +252$K
Jax  967$K 6991$K +6024$K

 元々コストパフォーマンスの高い2巡指名権を3つも譲り渡しているのだ。この結果も当然だろう。おまけにこのドラフトを通じてSeattleは指名数変わらず、Jacksonvilleは指名数を2つ増やしているのに対し、Clevelandは数を2つ減らしている。前にも述べたように他者を出し抜くのが困難なドラフトでは「くじを引く」回数を増やすのが最も手っ取り早い勝利法であり、その面で見てもClevelandの状況は厳しい。これで指名したLBとRBが(こちら"http://inupound.blog.jp/archives/52065584.html"のコメントにあるように)「バスト可能性大コンビ」なんてことになればGMのクビも危ういではないか。ナムアミダブツ!

 FAにしてもドラフトにしても、そこでの勝者はしばしばWinner's Curse"http://en.wikipedia.org/wiki/Winner%27s_curse"に捕らわれてしまう。この時期に目立っていたチームがいざシーズンに入ると冴えない状況に陥るのは珍しくない。Footballは秋のスポーツだ。勝つのなら秋(プロならさらに冬)に勝つべきであり、春に勝っても意味はない。
 もちろん映画はフィクションなので、春に勝利してめでたしめでたしと終わっても何の問題もないのは確かである。むしろこの映画を見るうえでは、シーズン外の「春の勝者」を演出することで観客にエンターテインメントを提供しているNFLの手腕に思いを馳せるべきなのかもしれない。
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