フレーフレー

 運動会などでよく使われる「フレーフレー」という言葉の語源にはモンゴル語だとの主張がある。直接の由来は英語であり、そこからドイツ語のフラー("http://www.youtube.com/watch?v=keMR42a14YQ"の5:09)、ロシア語のУра(ウラー)"http://www.youtube.com/watch?v=crXkiIPl_TE"を経て、最後はモンゴル軍の鬨の声に至るという説だ。例えばこちら"http://plaza.rakuten.co.jp/mongolmasami/diary/201208060000/"ではテレビ番組でそういう話があったとを指摘しているし、こちら"http://oshiete.goo.ne.jp/qa/7682252.html"では「語源は間違いなくモンゴル語 huraa フラー(またはquraa クラー)」と断言までしている。
 この言葉が日本に伝わったのがいつかは分からないが、少なくとも1916年初出の文章"http://www.aozora.gr.jp/cards/000165/files/49567_53842.html"には「フレーフレーと応援する旗振連中」という一文が出てくるから、20世紀までに来ていたのは確かだろう。米国に関してはまず南北戦争期によく使われていたことは、以前書いた"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/54842306.html"「ジョニーが凱旋する時」の歌詞にHurrahという言葉が入っていることから判明する。実際にはさらに前、ナポレオン戦争期の1813年に出版された本"http://books.google.co.jp/books?id=ARwTAAAAIAAJ"に、hurrahより古いhuzzaという言葉の使用例が多数掲載されている(p3など)。
 英国でもナポレオン戦争期にあったことは間違いなく、1805年出版の本"http://books.google.co.jp/books?id=egMcAQAAIAAJ"に載っているNaval Balladという詩の中にHuzza! for Old England! huzza!というフレーズが記されている(p480)。それどころか1780年に出版された英語辞典"http://books.google.co.jp/books?id=mCY-AAAAcAAJ"にもHuzzaという言葉が掲載されており、英国でも昔からこの言葉が存在していたことが分かる。
 
 だが、そこからさらに遡り、フレー=モンゴル語源説を探ろうとすると話は面倒になる。どうやらこの説は「間違いなく」といえるほど明確なものではないようだ。例えば英語wikipedia"http://en.wikipedia.org/wiki/Huzzah"では英語のHuzzahについて「語源は明確ではない」と断ったうえで、Jack Weatherfordが主張する「モンゴル軍が使っていたモンゴル語のHurreeに由来するもので、13世紀のモンゴル帝国の時代に世界に広まった」との説に対し「補強する証拠を全く示していないようだ」と指摘している。
 Weatherford自身はある読者からの質問に対し、現在のモンゴルでは「フレー」という言葉がキリスト教徒が「アーメン」という言葉を使うのと同じように使われていると指摘するなど、モンゴル語由来であることに自信を持っているようだ。ただし「権威のあるソースに由来するものではないため、多くの学者はこれを却下するかもしれない」とも述べており、論拠が弱いことは認めている"http://sci.tech-archive.net/Archive/sci.lang/2005-11/msg01153.html"。
 より詳細に載っているのはロシア語wikipedia。語源のところ"https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%A3%D1%80%D0%B0!#.D0.AD.D1.82.D0.B8.D0.BC.D0.BE.D0.BB.D0.BE.D0.B3.D0.B8.D1.8F"に色々な説が載っているのだが、そこで最初に紹介される学術的な論拠がある説は以下の通りだ。
 
・スラヴ語辞典"http://slovari.yandex.ru/"にはリトアニア語のヴィライ(ヴィル)や、タタールの部族的な鬨の声であるウル、さらにロシア語の叩くという意味のウラジットなどが紹介されている"http://slovari.yandex.ru/~%D0%BA%D0%BD%D0%B8%D0%B3%D0%B8/%D0%A2%D0%BE%D0%BB%D0%BA%D0%BE%D0%B2%D1%8B%D0%B9%20%D1%81%D0%BB%D0%BE%D0%B2%D0%B0%D1%80%D1%8C%20%D0%94%D0%B0%D0%BB%D1%8F/%D0%A3%D0%A0%D0%90/"。ただしこれらは語源というより比較にとどまっているという。
 
・ブロックハウス・エフロン百科事典"http://www.vehi.net/brokgauz/index.html"はタタールのウル、あるいはキルギスのウランという鬨の声を紹介している"http://www.vehi.net/brokgauz/all/104/104673.shtml"。
 
・マーク・ヴァスマーは中世高地ドイツ語のフラーに由来する近代高地ドイツ語のフラが語源だと見ている。これらの言葉が急いで動くという意味のhurrenと関連があるためで、トルコ系のウラ(叩くの意味)が語源だとは思いにくいとの説だ"http://www.slovopedia.com/22/211/1644016.html"。
 
・モキエンコによると語源は西スラヴ語、さらに遡って中世ポーランド語に由来するもので、その意味は「頂点を取れ」だという"http://books.google.co.jp/books?id=PtwLAQAAMAAJ"
 
 見ての通り、一つとしてモンゴル語源説はない。かろうじてトルコ系の言葉に由来するとの説があるが、それに対する批判も明白に存在する。英語wikipediaによると、Oxford English Dictionaryは英語のhuzzahについて陸軍より先に水兵の歓声として使われていたとしており、おそらくheezeやhissa同様、hoist(帆を揚げる)に関連する言葉だったと見ている。高い位置に行くという意味ではモキエンコの主張と相通じるものがある。
 要するに学術的立場からはウラーの語源をモンゴル語と見なすのは難しいようだ。ロシア語wikipediaでは学術的な論拠のない説として、モンゴル語の叩けという意味のフラ、あるいは前進の意味であるウラーシャ、ウラランという言葉を紹介している。現代モンゴル語ではウライとかクライという言葉になっているという。でも学術的論拠のない説なら他にもバルト沿岸スラヴ語由来説、トルコ語のユール説、タタールの囲むという意味のウラウ説、挙句の果てには古代サンスクリット語説などもあり、まさに百家争鳴だ。
 
 もともと語源というのは分かりにくいものが多い。だから明確な結論はいえないが、それでもフレーの語源をモンゴル語と見なすだけの充分な論拠がないことは確かなようだ。ドヤ顔で「フレーフレーの語源はモンゴル語なんだぜ」と薀蓄を披露するのは控え、代わりに「フレーフレーの語源がモンゴル語って説は、実は論拠が不十分なんだぜ」と言うにとどめておこう。
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