Omanの本は中世の戦場を概観するにはいい本だろう。いささか西の方に比重が偏りすぎている点は問題かもしれないが、そもそもInner ZoneとOuter Zoneを一まとめにすること自体に無理があるのだと思えば、西に重点を置く書き方もありだろう。かなり特殊な兵種であり、活躍も限られた時期に留まった長弓兵についてここまで長々と描き出したのはさすがにバランスが悪すぎるが、このあたりは英国人が英国の読者向けに書いた本ならではだろう。
だが彼の本を見ても全く分からないところがある。例えば中世の兵が戦いに至る前にどのように編成されたのかという点だ。要するに、前に書いた領主別編成と兵種別編成の話"
http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/54538081.html"。封建諸侯たちは国王に義務を果たすよう求められた時にどのように部隊を集めたのだろうか。諸侯たちの軍勢が集結した時点で、国王はどのように「全軍を三分」したのか。行軍時と戦闘時の編成は同じだったのか違ったのか。封建騎士に付随していた歩兵たちはどう編成されどのように配置されたのか。そういった点がはっきりしない。
騎兵や歩兵といった兵科の強弱についても、戦場で目に見える部分についての記述にとどまっている。騎兵や歩兵の武装、構成員の同質性や異質性、西欧ではシンプル、東欧ではより複雑だった兵科を生かした戦術のあり方など、会戦当日の状況については分かる。でも背景となる政治的、社会的、経済的要因については全く踏み込んでおらず、戦場の軍という氷山の頂点を支えていた水面下の事情は全然見えないままだ。
19世紀に書かれた本だと思えば、多言語の史料を縦横に駆使してまとめられた良書だと言えるだろう。ただ私がこの本に期待していたのは、もっと大きな戦争の流れ、近代以降の戦争につながる全般的傾向を掴むうえで参考になる記述だ。残念ながらそうしたものは見当たらず、もっと細かい表面的なことについて書かれた部分が多かった。
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