機械学習

 電王戦"http://ex.nicovideo.jp/denou/3rd/"で人間と勝負したコンピューター将棋は、機械学習という方法で強くなっていった。こちらの記事"http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NC/20131226/527422/"に紹介されているように、アルゴリズムを自動生成するこの機械学習がBonanza"http://ja.wikipedia.org/wiki/Bonanza"で導入されて以来、コンピューター将棋は急激に強くなっていったという。機械学習は局面評価だけでなく、指し手の探索でも使用しているソフトがあるらしい"http://blog.livedoor.jp/ulyemon/archives/4746111.html"。
 将棋に限らず、様々な分野で機械学習は効果を発揮している。ならば他のゲームにも機械学習を活用することはできるんじゃないだろうか。具体的に言えばアメフトの世界で機械学習を活用する動きが出てきてもおかしくないのではないか。
 そう思って調べると予想通り出てきた。まだ試験的な段階のようだが、こちらの修士論文"https://library.naist.jp/mylimedio/dllimedio/showpdf2.cgi/DLPDFR009725_P1-31"がまさに「機械学習によるアメリカンフットボールの戦略推定」に取り組んでいる。具体的には相手のオフェンスが次にどんなプレーを選ぶかを機械学習によって推定し、味方のディフェンスを決める参考にするという取り組みだ。
 分析によって相手の次に打ってくる手が高い精度で分かれば、もちろん効果は大きい。だがそれだけにとどまらず、分析にかける時間短縮という効果も期待できる。時間短縮だけなら関西学院大学が分析のために必要な映像加工時間を圧縮するシステムを開発した例"http://library.kwansei.ac.jp/profile/jc07_03b.pdf"があるが、それだけでもかなりの効果があったという。もし機械学習による推定が高い精度を達成すれば、それはプレーコールするうえでの大きな支援材料になるだろう。
 実際には「インサイドのラン」「アウトサイドのラン」「ドロー」「ショートパス」「ロングパス」という5種類のプレイに分けたところ51%の正答率を得たという。優秀なコーチには及ばないが、大学4年間プレイした選手の予想よりは上回った模様(p17)。逆にただの選手とコーチとの能力差が浮き彫りになった格好だが、この正答率は試験的な取り組みとしては結構高いと思う。ランとパスの2分類だけであれば正答率は77%まで上がり、コーチの率に近づくという(p19-20)。
 同じような分析をNCAAで行ったものも発見した"http://cs229.stanford.edu/proj2005/PinesMarz-BeatCal.pdf"。ランとパスのどちらを選ぶかは状況によって8割以上の正答率を誇ったそうだ。またこの分析により、3rd downでは多くのコーチが残った距離に基づいてプレイを選んでいるのに対し、1stと2nd downでは時間や得失点差、フィールドポジションなど他の要素も踏まえながら決断していることが分かってきたという。
 もちろんこちらの分析もまだエラーが多いという。何よりアメフトでは相手の虚を突くため、敢えて予想しないようなプレイをコールすることも珍しくない。将棋ほど合理的に機械学習の成果を活用できるゲームでないだろうことは予想できる。また、アメフトの世界では他のスポーツに比べてまだ機械学習の導入は多くないという"http://gigaom.com/2012/11/25/can-machine-learning-make-sense-of-the-nfls-big-data/"。あくまでこれからの発展が期待される分野であろう。
 それでもMLBでA'sがセイバーメトリクスを導入して成功するようになって以来、多くのチームがこうした手法を取り入れていくようになったのを見る限り、機械学習についてもそれを使って成功するところが出てくればあっという間に広まるだろう。NFLはCopycat Leagueであると常に言われているように、成功者を模倣するのは当然の流れだ。機械学習が効果的でさえあれば、いずれは当たり前のように使われることになるだろう。
 個人的には最初の修士論文を見る限り、現状レベルでも結構使えそうな技術に思える。もちろんそれに頼りきりになることはできないが、5種類のプレイのうち可能性の高い順番から並べて3位までなら8割以上の正答率につながる(p20)のだから、実際のプレイコールにおいても充分参考になるだろう。特にコーチが自らの思考の補助材料として使う場合は、時間短縮効果まで含め様々な取り組みが期待できそうだ。この論文にデータを提供した立命館を含め、どこかの大学がやっていないだろうか。
 もちろんプレイコール以外にも機械学習は使えるはずだ。上の英語論文でもギャンブルへの使用が将来の課題としていたし、こちら"http://www.nytimes.com/2013/10/11/sports/football/turning-advanced-statistics-into-fantasy-football-analysis.html"ではファンタジーフットボールのドラフト用に機械学習を使う方法を提案しているし、自身が複数のファンタジーフットボールを行っている"http://www.ibtimes.com/new-fantasy-football-strategy-ny-times-data-scientist-changes-game-creates-new-way-pick-rbs-wrs-qbs"。そのうち本物のドラフトで機械学習に基づくピックが行われる時代も来るかもしれない。
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