世論とSTAP

 STAP細胞ソープオペラは、基本的に科学的な話はもう終わっているのだが、副センター長の会見でそれっぽい話がまた出てくるようになった"http://www3.riken.jp/stap/j/s3document1.pdf"。とはいえこういう話は素人の私が考えても仕方ないので専門家に議論を任せるのがいいだろう(例えばこちら"http://nosumi.exblog.jp/20593812/")。というか、科学ネタではもっと面白いこういう話"http://www.hokudai.ac.jp/news/140418_pr_agr.pdf"も登場してきたし、今更ただの仮説に戻ったSTAP細胞の話をしてもつまらない。
 
 従って科学とは何の関係もない「世間がSTAP細胞をどう見ているか」の話についてまとめてみよう。ネット上でぽつぽつとこの問題に関するアンケートのようなものが紹介されているので、それを集めてみた。自然科学的には無意味な話だが、社会学的な視点でみれば充分に意味のある話だと思う。きちんとサンプリングしてアンケートを行っていれば。
 残念ながらそういうきちんとした調査はあまり行われていないようだ。以前紹介したこちらのネット調査"http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/11241/result"は、はっきり「統計に基づく世論調査ではありません」と書いているし、そもそも当初は45%を超えていた「納得した」が30%になり、30%弱だった「納得できなかった」が50%を超えるなど、変動が激しすぎて参考にならない。
 それでも、科学的な議論が中心だった副センター長会見のアンケート"http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/11301/result"と比較すると、科学的な内容は充実していたはずなのに「納得した」が少なく「納得できなかった」が多いという面白い結果が判明する。ネット読者の中には、会見の内容より非言語的な情報(仕草や表情、というか要するに泣いてみせた点など)に基づいて判断している人の割合が多いのではと想像できる結果だ。
 
 当初からこの問題を追いかけている海外のblog"http://www.ipscell.com/"も、アンケートを行っている。最新のもの"http://www.ipscell.com/2014/04/do-you-believe-in-stap-stem-cells-poll-8/"を見るとSTAPがないとの回答が多数になっており、海外ではSTAPの実在を疑わしく見ている人の方が多いことが分かる。
 面白いのはこのblogに載っている「日本人のみのアンケート結果」"http://www.ipscell.com/2014/04/poll-7-on-stap-cells-shows-little-change-with-few-believers-in-japan/"だ。実はこちらに投票している日本人は、全体よりもさらにSTAPへの不信感が強いという結果になっている。英語サイトを読み投票できるくらいの知識を持つ人の間では、そうでない人よりSTAPを疑う傾向が強いのかもしれない。
 そう思わせる結果は他にもある。テレビが行った男女計200人のアンケート"http://www.j-cast.com/tv/2014/04/10201729.html"によると、過半数の109人がユニットリーダーを「信用できる」と回答したのだそうだ。特に男性では6割近くが「できる」と答えており、女性より評価が高い。ただしその理由は「ウソをつくような人に見えない」「思いが伝わってきた」という科学と無関係のものが中心だった。年齢層もばらした調査のようであり、世間一般の傾向を示す一つの例だろう。
 一方、それよりはドライな結果になったのがこちら"http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1403E_U4A310C1000000/"。STAP細胞はつくれていたかとの質問に「つくれていた」が4割強、「いなかった」が6割弱の回答になっていた。こちらは有料読者を対象にしたアンケートであり、世間一般よりも管理職など社会的地位の高い人の割合が高いと思われる"http://www.nikkei.com/topic/20121220.html"。世間全体を対象にした場合と、知識層に重点を置いた場合とで、反応に違いが見られるともいえる。
 
 性別の違いも傾向として現れている。例えば主婦を対象にしたアンケート"http://jisin.jp/news/2630/7066/"になると、100人中「支持する」との回答は半分以下の44人にとどまった。それでも会見前に比べれば支持は高まったそうだから、あの会見そのものは男女ともに一定の効果を持っていたのは事実なんだろう。でも男性の方がより「若い女性の涙」に弱いことは否定できない。
 こちらのネット調査"http://news.nicovideo.jp/watch/nw1034549"も同じ。ここでは「どちらともいえない」という回答を認めたためそれが過半数を超えているが、STAP細胞の存在については「はい」の方が「いいえ」より多いし、また男性の方が「はい」の比率は女性より高い。もっとも女性はそもそもSTAP細胞に関心がない人の割合も多いようで、「若い女性による科学に関する会見」というテーマの時点で興味を失っていたのかもしれない。
 面白いのは「STAP細胞は世の中に必要か」との質問に60.3%が「必要」と答えているところ。実際にはたとえSTAP細胞が実在して多能性を獲得していたとしても、医療現場への応用にはかなりの時間がかかるだろうし、どれほどの効果が期待できるかもまだ分からない。夢の技術的な売り文句を額面通りに受け取っている人が多いことを示しているんだろう。高度に発達した科学技術と魔法は見分けられないという某SF作家の指摘そのままだ。
 最後に文系大学1年生を対象に行ったというアンケート"https://twitter.com/SfumatoAMR/status/456061295624589313"。「あると思う」5割、「ないと思う」3割、「どうでもいい」2割がその結果だった。文系だし1年生でまだ学問的な基礎訓練を受けていない人々の反応だと考えれば、世間一般は「どちらともいえない」の比率が高いだけ若者よりは賢いのかもしれない。「分からないことには態度保留しておく方が安全」という経験に基づく知恵が身についた分、素直すぎる若者より慎重な態度になっているのかもしれない。
 
 いずれも厳密な調査とは言いづらいし、そこから確定的なことを断言するのは無理だろう。それでも世間一般で見れば、おそらくユニットリーダーあるいはSTAP細胞に対し肯定的な人が否定的な人より多い。こちらのツイッター分析"http://mainichi.jp/feature/news/20140414mog00m040002000c.html"の結果も含め、あの会見が(世論に訴えるという意味で)一定の成功を収めたのは間違いないだろう。ただ、その成功を今後にうまく生かせなければ意味はない。世間は飽きっぽいのだ。だから忘れ去られる前に次の手を打つ必要があるんだが、さてどうするつもりなのか。
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