ユースバルジ?

 こちら"http://populationpyramid.net/"には各国の人口ピラミッドを見ることができるサイトがある。例えばアフガニスタン"http://populationpyramid.net/afghanistan/"を見ると、若者が異常に多い。典型的なユースバルジが形成されていることがわかる。だが、前にも指摘したようにアラブの春が起きた国々では、既に出生率低下が始まりユースバルジはピークを超えつつあった。例えばチュニジア"http://populationpyramid.net/tunisia/"。20代の人間が多いのは確かだが、アフガンほど極端ではない。
 ウクライナ"http://populationpyramid.net/ukraine/"ではさらに若者の比率は下がる。この国の人口ピラミッドはロシア"http://populationpyramid.net/russian-federation/"とそっくりであり、アラブの春が起きた国々よりも英国"http://populationpyramid.net/united-kingdom/"や米国"http://populationpyramid.net/united-states-of-america/"といった先進国に似ている。アラブ諸国と似ているのは、旧ソ連でもタジキスタン"http://populationpyramid.net/tajikistan/"のようなイスラム圏である。
 思うにユースバルジ論"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/49408146.html"は、紛争問題に人口学的な視点をもたらしたという意味で重要ではあるが、それだけで全てが説明できる理論ではないのだろう。ユースバルジがあっても政治的に安定している国はあるし、逆にウクライナのようにユースバルジがなくても騒ぎが起きる例もある。若者の数が少ないからといって絶対に動乱は起きないとは言えない。ウクライナの出来事が示す教訓はそこにあるのかもしれない。
 
 ただユースバルジが「父親の後を継げない次男三男のポストを求める動き」を説明要因として掲げているのはどうだろうか。そこでは兄弟間のポスト争いは指摘されているが、親と子供のポスト争いへの言及はない。そして、今の先進国はむしろ後者の問題が強まりつつあるように思える。
 Young Adult Failure to Thrive Syndromeなる文言が、最近ネットで紹介されていた"http://totb.hatenablog.com/entry/2014/03/05/070529"。元になった論文はこちらの冊子"http://www.vaestoliitto.fi/tieto_ja_tutkimus/vaestontutkimuslaitos/julkaisut/finnish_yearbook_of_population_r/finnish-yearbook-of-population-r4/"に掲載されたもの(下から2番目)。先進国では1980年代以降、若者を取り巻く状況が悪化しているという指摘だ。
 各国共通の現象であるということは、その要因も個別的なものではないことを意味する。論文によれば若者の特に経済的環境が悪化している理由は、労働市場の供給側については(1)グローバル化による労働人口の増加(2)教育革命(3)女性の労働参加の増加――が上げられるという。途上国の労働力が国際競争に加わり、教育水準上昇で質の面でも競争力が高まる。そして女性の参加によって一段と労働者間の戦いが激しくなる。
 需要側にも変化が生じている。自動化の進展で工業セクターの需要が減り、その分だけサービスセクターに需要がシフトする。サービスセクターは伝統的に女性労働力が強い分野であり、男性労働力にとっては一段と情勢が厳しくなる。そして先進各国の財政悪化は国の歳出を減らし、一段と雇用減の圧力を強めている。若者の比率が減ればみんながポストにありつけてよかったね、とは行かないわけだ。
 いやむしろ若者の方がこうした労働環境変化の悪影響に直撃されている。相対的貧困の比率を見れば1970年代は若者より高齢者の方が高かった(おそらく引退して無職になる人がいた影響で)。だが2000年代になるとむしろ若者の方が高齢者より相対的貧困の比率が高くなっている(Figure 1)。若者と高齢者の収入の比率を見ても、1980年代より2000年代初頭の方が格差が開いている国が多い(Table 2)。若者にとってより厳しい社会が先進国では生まれている。
 若者の死亡率は収入の厳しいところほど高まっている傾向が見られ(Figure 2)、また収入の少なさが未婚につながっているとの研究も紹介されている。日本では結婚において配偶者の収入が「あまり重要でない」「全く重要でない」と答えた男性が69%だったのに対し、女性はたった5%だった。女性の社会進出がより進んでいるノルウェーですら10人中7人の女性が家族においては男性が主な収入源であることを望んでいるという(p180)。若者の収入源が結婚難と子供の減少をもたらしているとの考えだ。
 米国を調査対象にしたThe Rising Cost of Not Going to College"http://www.pewsocialtrends.org/files/2014/02/SDT-higher-ed-FINAL-02-11-2014.pdf"も、色々と考えさせられる文章だ。大卒と高卒の間の格差が以前より開いているというのがメーンの分析なのだが、そこで出てくる時系列分析が興味深い。たとえば貧困状態にある比率だが、2013年の若者(Millennialsと呼ばれる)では大卒の6%、高卒の実に22%が貧困だ。初期のベビーブーマーが若者だった1979年は、大卒3%、高卒でも貧困層はたった7%。学歴の低い層ほど貧困悪化が激しいが、大卒でもかつてより厳しい若者の比率は高まっている。
 要するに若者全体が昔より貧困に追いやられやすくなっており、特に学歴が低い場合はその度合いが激しくなるという状況だ。日本で見られるのと似た現象であろう。そういえば最近は若者の貧困を題材にした映画"http://www.youtube.com/watch?v=jfqXPs7EgiI"も公開されたようだが、こうした現象は日本だけでなくどうやら先進国共通の面があるようだ。一方で高齢者側の状況は若者ほど悪化していない。世代内のポスト争いというより、世代間での資源の取り合いの方がメーンになっている気がする。
 
 ユースバルジの国で長男と次男以下の争いが注目されるのは、単に人口全体に占める彼らの比率が高いからではなかろうか。一定年齢以上の高齢者は、これらの国にはほとんど存在しない。だがユースバルジのなくなった先進国では、逆に高齢者の比率が高まる。いつまでも彼らがポストに居座り続け、財貨を保持し続けるため、若者が割を食う。そうなると若者の不満が高まるのは当然だろうし、そして若者ほど過激な行動に走りやすいという進化心理学の成果を踏まえるなら、そういう国ではたとえ若者が少なくても政情不安が起こり得るだろう。ウクライナは先進国とは言えないが、ユースバルジがなくても騒動が起きる可能性を示した意味で、注目する必要がありそうだ。
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