NFL関連でこんなニュースが出ていた"
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323779204579043781746053704.html"。元選手4500人(!)とNFLが脳震盪を巡る訴訟で和解したという話だ。関係者の数も驚きだが、金額も約750億円という凄い額。流石は金持ちリーグというべきか、それだけ事態が深刻であるというべきか。
それにしても脳震盪は難しい問題だ。現在行われているプレシーズンでもKolbが少なくとも3度目の脳震盪を受け、キャリアエンドの懸念すら出ている。過去にもSteve YoungやChris MillerといったQBたちが脳震盪でキャリアを終わらせた事例があるし、それに何より脳震盪は単にスポーツだけでなく日常生活にも影響を残す可能性がある。
元選手たちも、ある程度のリスクは許容していただろう。怪我の可能性と引き換えに金や名声を得ようとしていたのはおそらく事実だ。ただ、後々まで後遺症に苦しむようなリスクまで考えていたのかというと、そのあたりは微妙。そもそも一昔前には脳震盪がこれだけ深刻な怪我であると考えられていなかった面がある。知らされていなかったリスクについて、改めて補償を得ようと思う元選手が増えてきたことを示す話なのだろう。
この問題はおそらくNFLだけにとどまるものではない。こちら"
http://www.momsteam.com/health-safety/concussion-rates-high-school-sports"には米国の高校スポーツにおける脳震盪関連のデータがいくつか紹介されているが、予想通り最も脳震盪の発生率が高いのはアメフトであり、最もリスクに晒されているのもその選手である。ほとんど全てのアメフト試合で少なくとも1人の選手が軽い脳震盪になっており、毎年約6万7000人の高校選手が脳震盪と診断されている。
もっと酷い数字もある。New York Timesによれば1997年以来、少なくとも50人の高校生以下の選手が死亡したか頭部に深刻な怪我を負っているという。また1931年から2011年までに678人の高校アメフト選手が死んでおり、うち3分の2がヘルメット同士の衝突が原因だという。ある調査によれば選手の半分近くが脳震盪の症状を経験しており、3分の1は1シーズンに2回以上の脳震盪を経験している。
脳震盪の後遺症については英語のwikipedia"
http://en.wikipedia.org/wiki/Post-concussion_syndrome"で長々と紹介されているように、様々な研究が進んでいるようだ。特に頭痛や眩暈といった症状が特徴的なようだが、時には恒久的にその症状が続くという。物理的な原因なのか、あるいは心理的なものであるのかといった議論もなされているようで、まだ分からないことも多いようだ。
いずれにせよ頭部へのダメージがスポーツの世界においても特にリスクの高い事象であることは否定できないだろう。そう考えると、この夏の甲子園大会中に時々あった「米国人に投手の投げすぎを批判させる」というタイプの報道は、あまり説得力があるとは思えない。高校球児の投げすぎより、アメリカのハイスクールフットボールの方が余程危険は大きいだろうに。
簡単な解決策がないのも脳震盪の難しいところだ。日本の高校野球なら、例えば投球数制限を設けることで割と簡単に対応できそうに思える。しかしアメフトのようなコンタクト・スポーツで脳震盪のリスクを下げるのは簡単ではないだろう。アメフト同様のコンタクト・スポーツであるラグビーでは2011年から「脳震盪の疑い」の時点で退場させるようにしている"
http://www.rugby-japan.jp/laws/2011/1107_concussion.html"。これとても脳震盪そのものを防ぐ効果より、被害の拡大を抑える対策でしかないのだが、やらないよりマシなのは確かだろう。
より根本的対策はないのか。コンタクトを減らす、あるいはなくすのが最も簡単な方法だ。少なくとも意図的なコンタクトは禁止すれば、脳震盪リスクは大幅に減ることだろう。だがそんなスポーツを誰が喜んで見るだろうか。NFLがフラッグフットボールのルールを全面採用した場合の視聴率は、今の水準を維持できるだろうか。タックル禁止のラグビー・ワールドカップが開かれたら、果たしてどれだけの観客が来てくれるのか。
前にも書いたが、我々は現代の剣闘士を見ているローマ人なのだ。そして無責任な観客ほど残酷なものはない。もちろん私自身もそうであり、だから選手同士の衝突のないアメフトをわざわざ見たいとは思わない。ルールを大きく変えないまま、どこまで安全性を高められるか、そういう取り組みが求められるんだろう。
ちなみにNFLではファイナルカットが実施。もちろんQBも数多くクビになり、元1巡指名のDavid Carr、Matt Leinart、Vince Young、Tim Tebow、Brady Quinnらが無職になった。一方でBuffaloなどは新人2人しかロースターにQBが残っていない状態で、まだ開幕前に仕事にありつけるQBが出てくる可能性はある。さてどうなるか。
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