クレベールかレシェルか

 ショレの戦いとクレベールについて。1805年に出版されたSpilsburyの本"http://books.google.co.jp/books?id=kwAxAQAAIAAJ"では、ショレの戦いについてクレベールの名は登場せず、レシェルが指揮を執っているように書かれていた(p102-106)。1806年出版のBeauchampの本"http://books.google.co.jp/books?id=t1kUAAAAQAAJ"も同様(p360-366)。一方、セント=ヘレナのナポレオンはクレベールが事実上仕切っていたように述べている("http://books.google.co.jp/books?id=E7gNAAAAIAAJ" p238)。
 Savaryがクレベールの活躍を紹介したヴァンデに関する本を出版したのは1824年以降のこと"http://fr.wikipedia.org/wiki/Jean_Julien_Michel_Savary"だから、それより以前にナポレオンはクレベールの活躍を知っていたことになる。もちろんSavaryが元ネタにしたクレベールの回想は彼(1800年死去)の生前に書かれていたわけで、その意味ではSpilsburyもBeauchampもクレベールの回想を使うことができた可能性はあった。
 にもかかわらずショレの戦いについてレシェルが主役であるかのように書いたってことは、この戦いの実態について十分な史料を集められなかったということなのかもしれない。それとも何かクレベールの活躍を大っぴらに書けない事情でもあったのだろうか。考えにくい話だが。
 
 そもそもショレの戦いにおいて事実上、クレベールが仕切り役であったことは間違いないのだろうか。Kléber en Vendée"http://archive.org/details/klberenvende00kl"に紹介されているショレの戦い前日の命令(p361-362)を見ても、残念ながら誰が出した命令かは書かれていない。ただし、この文章はクレベールの命令書から引用したものとあるので、特に署名主がない場合はクレベールの命令だと見なすことは可能だろう。だとすれば、彼が部下全体に細かい命令を出していたことが、以下の命令内容からも窺える。
 
「[ショレ]1793年10月16日
 全軍はショレを通過して高地にあるグロローの森に布陣し、左翼をトレイユ城まで延伸する。
 ショレの森は多大な注意を払って探索する。市民タルジュがこの作戦を委ねられる。彼はこの遠征に必要な兵全てを使うことを許可される。
 全将軍、准将、大隊指揮官はその大隊、旅団、師団を注意深くまとめるよう命じられる。また幕僚に状況を遅滞なく伝えるよう命じられる。
 将軍は全上級士官に対し、必要ならそれなくして軍組織が活動できないこの命令の即時実行を推奨する。各大隊指揮官は上官に対し各大隊の占拠している場所を報告し、後者はそれを全般報告に書き留める。
 軍がショレを通過する際には、各指揮官は戦列の先頭に立ち、各隊列を詰め、そして少佐たちは自らの責任において、誰も隊列を離れて家々に入らないよう厳正な秩序を維持する。
 将軍はこの命令の実行を強く求めることを警告する。
 略奪は最も厳しい罰を持って禁止される。ショレの町は法の保護下にあり、この命令に反したものに対しては厳格にそれを適用すると、将軍は宣告する。
 彼は又全軍に対し、共和国の兵たちに必要な物資を与えるよう命令を出しあらゆる対応を取るよう告げる。既にショレ住民は軍に対しワインと彼らが使えるあらゆる支援を申し出ており、それらはすぐに供給される。処置を定めた時に全幕僚士官は常に司令部へ赴くことで命令の実行にどのような遅れも起こさぬよう命じられる。
 状況に応じたあらゆる特別な命令は縦隊指揮官に与えられる。
 また全師団及び旅団指揮官に対し、即座に彼らの宿営地[の場所]と司令部の所在地を幕僚に伝えるよう命じる。部隊及び大隊の各指揮官もまた大佐に対して同じことをするように。
 配給命令は邪魔されてはならず、主計官は自らの責任でそれが遅滞なく実行できるよう命令を出す」
 
 おそらくこうした実態はヴァンデで戦っていた大勢の人間が知っていただろう。だがそれでも19世紀初頭にレシェルが具体的な指揮を執っていたかのような記述があるのは、現場に居合わせなかった人間の間ではそうした事実があまり知られていなかったためではないだろうか。ナポレオンが知っていたのは、彼がクレベールを直接の部下に持ったことがあったからだと考えれば辻褄が合う。レシェルがお飾りで、実質クレベールが指揮官だったとの認識が広まったのは、Savaryの本などによって実態が少しずつ明らかになった後の話ではなかろうか。
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