小麦とライ麦

 こちら"http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20130807"に面白い書評が載っていた。農業改善にダーウィンの進化論を応用しようという内容の本であり、バイオテクノロジー万能論も、逆に自然農法万歳といった議論も、どちらも不適切だと言っているんだとか。
 さらに過去に農業の改善をもたらした緑の革命についても進化論的視点から言及している。かつては個別の作物が隣の作物相手に日光の取り合いを行い、収量上は無意味な茎の高さや葉の角度にコストを費やしていた。人間が淘汰を加えることによってそれが変化し、「実際に緑の革命による小麦は背が低」くなったという。
 これを読んで私が思い出したのはワーテルロー戦役に参加した兵士たちが残した情景描写。とにかく高く伸びた穀物によって視界が遮られたという話が多く載っている。一例がこちら"http://books.google.co.jp/books?id=UQuukIglSjUC"のp16に紹介されているキャトル=ブラの戦いであり、これもダーウィン的進化を裏付ける一例か、と思ったが中身をよく読むとそこに出てくる穀物は小麦ではなくライ麦だった。
 
「モリス軍曹は『異常な高さのライ麦、そのいくつかは7フィートの長さ』に言及し、アルトン軍曹は『アシのようにいくつかの沼の周囲に育った茎は、我々の前進を妨げた。その上端は我々の帽子にまで達していた』と話し、ルウェリン大佐によれば『畑のライ麦はあまりに高すぎ、我らの隊列より向こうを見るのはほとんど不可能だった』」
 
 こちら"http://www.gene.affrc.go.jp/databases-plant_images_detail.php?plno=3110440005"を読むとライ麦は今でも高さ1.3~1.8メートルと背丈が高い模様。ものによっては2メートル程度との指摘もある。一連の戦闘参加者の発言は、「昔の小麦は今より背丈が高かったから兵士の頭の上まで伸びていた」のではなく「ベルギーの戦場にはライ麦がたくさん栽培されていた」ことを証言するものだと見なすべきだろう。早とちりは危険であり、きちんと調べることが重要だと改めて思い知らされる話だった。
 ちなみにUnited States Department of Agriculture"http://www.fas.usda.gov/psdonline/"のデータによれば、最近でも世界のライ麦生産量の半分以上はEU諸国が担っているようだ。もっともベルギーの名前は生産量上位には見あたらず、どうやら今ではワーテルローの戦場近辺で育ちまくったライ麦を見るのは簡単ではなさそう。こちら"http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0319.html"によればベルギーの穀物自給率は5割を下回っており、日本ほどではないにせよ穀物栽培は盛んではないようだ。
 
 あと、モリス軍曹の元ネタはこちら"http://books.google.co.jp/books?id=Sw4EAAAAQAAJ"のp133にある。
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