分かりやすさと正確さ

 あるtogetterで、最初のツイートに「有名なモンティ・ホール問題にすっきりとした解説がされていてはっとしました」という一文があるのを見て嫌な予感を覚えた。で、読み進めると予想通り「計算して正確に求める方法はさておいて、こまかいところはさておき直感的に分かる方法でいうと。箱を10個用意します。あなたは1つ選ぶ。そして司会者がのこりの8個をあけてハズレを示す。このとき、あなたは選んだ箱を変えますか?かえませんか?」という文章が。そして「箱をかえなければ10%、箱をかえたら90%の確率でアタリます」としたうえで「箱が3個の場合だと、最初に選んだ時点であなたがアタリをひく確率は1/3。のこりの2つのほうにある確率が2/3。これはだれでもわかります。司会者がのこり2つのほうを1つに狭めてくれたのですが、そしたら、その一つのほうがアタリになる確率が2/3というわけです」という結論を出している。
 残念ながらこれは間違った説明だ。たまたま回答が正解と一致しているだけで、途中の考え方は明らかに誤っている。といってもこの間違いは別に珍しいものではない。昔から有名なのがこちらにある「猫のフラッシュ」"http://ishi.blog2.fc2.com/blog-entry-182.html"であり、NHKの2355でも同じ間違いをしているという"http://www016.upp.so-net.ne.jp/coffeedonuts/2355.html"。でもこれらの説明を読んで「分かった」と言っている人はネット上にも数多くいる。一見して説得力がある「分かりやすい」説明なのだろう。実は私も最初に猫のフラッシュを見たときはうまい説明だと感心してしまった。
 
 だがどれほどうまい説明に見えようとも、この「猫のフラッシュ」はやはり間違いなのである。それを明確に示すのがこちら"http://d.hatena.ne.jp/kojette/20090804/1249388620"の問題。回答編"http://d.hatena.ne.jp/kojette/20090811/1249921698"を見れば、猫のフラッシュ方式で計算する答えと、きちんと確率を計算した場合の答えとが違ってくるのが分かるだろう。一見もっともらしい猫フラッシュだが、その計算法を採用すると少し条件が変わっただけで間違った回答にたどり着いてしまう。猫フラッシュを見て「分かった」と思った人は、実は全然分かっていないと自ら告白しているも同然なのである。
 NFLのスタッツやナポレオニックに関しても、実は同じことがある。かつて、Emitt Smithが100ヤード以上走った試合の勝率は高い、だからランオフェンスの確立が重要なんだ、という話がまことしやかに語られていた時代があった。Smithだけではない。例えば2000年以降ではEdgerrin Jamesが100ヤード以上走った試合で42勝5敗と極めて高い勝率を記録している。だが中身を見ればJamesはリードした後半に811回のランで3235ヤードを稼いだのに対し、リードされている後半には408回のランで1775ヤードしか走っていない。ランを確立したから勝ったのではなく、勝てそうだからランを増やして時間を潰しにきたに過ぎない。
 ナポレオン関連ではこちら"http://www.asahi-net.or.jp/~uq9h-mzgc/g_armee/heymes.html"の最後で「筋が通っていてとても分かりやすい話は、実は怪しい」と指摘しているのが代表例だろう。似たような話はおそらくどんな分野にも存在する。
 
 「分かりやすい」説明が「正確な」説明である保証はどこにもない。一見して分かりやすいが間違った説明を見て、分かったと思い込んだだけかもしれないのだ。にもかかわらず「自分はもう理解した」と判断して考えるのをやめてしまうと、その時点でもはや正解にたどり着くことはできなくなる。とはいえ、そもそも本当に理解していないことについて「この説明は正解ではない」と判断することなどできない。というかそれができるくらいなら最初から「分かったと思い込んだ」状態になどなっていない。
 できることと言えば、正解にたどり着いたと思った後も絶えず考え直す姿勢を保つことだろう。そしてできるだけ他人の話を参照する。自分だけだと思い込みから抜け出すのは難しいが、他者の見解を聞けばそこで気づくことができるかもしれない。もちろん自分と似たような意見ばかり聞いていたのでは意味がない。できるだけ違う意見の持ち主に耳を傾ける必要があるだろう。いわばPDCAサイクルを回し続ける努力が欠かせないのだ。
 そして、とにかく「分かりやすさ」に安住しないこと。世の中には一見して分かりやすそうな説明が山ほど溢れている。その説明を受け取るだけになってしまえば、知識も知恵もつかない。「学んで思わざれば則ち罔し、思うて学ばざれば則ち殆し」だ。
 知は力なり。積み重ねた知は、生きていくうえで重要なTIPSになる。知的怠慢に安住するのは、悪い人生を生きるための手っ取り早い方法だろう。
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