QBのラン、修正後

 実績のあるQBの中でももっともよく走った選手はMichael Vickである。キャリア1120パス試投(先発5年分相当)以上を記録したQBを対象に見るとVickが(現時点で)5551ヤードのランを達成しており、以下Randall Cunningham(4928ヤード)、Steve Young(4239ヤード)、Fran Tarkenton(3674ヤード)などが続く。3000ヤード以上は8人、2000ヤード以上は23に、1000ヤード以上は73位といった具合だ。
 だが、このランキングで上位に入っているQBたちをよく見ると、そのほとんどがサックを計算してもらえるようになった最近の選手で占めているのがわかる。NFLが公式にサックを記録として認めるようになったのは1982年。実際に記録が取られるようになったのはもっと前だが、それでも1969年までしか遡れない。だから例えばJohnny Unitasのキャリア被サック数はたったの74。パス試投数5186に比べて異常に低い数値になっているが、それはもちろん彼の晩年5年分の数字しかないからだ。
 昔はサックはランプレイと一緒にまとめて計算されていた。だから本当にQBのラン能力を出してみたいのなら、最近のQBも過去のQB同様、ランとサックによるマイナス分を足し合わせて数字を出すのがふさわしい。ちなみにこれをやるとポケットパッサーはしばしばラン数値はマイナスになるが、面白いから計算してみよう。
 やはりデータが揃っている1932年以降で1120試投以上を記録したQB202人を対象に上記の「旧ランヤード」を算出する。するとトップは、やはりVickだ。サックのマイナス分を差し引いても彼が足で稼いだ距離は3909ヤードに達し、他の選手を大きく引き離している。Vickがいかに特殊な選手であるかが窺える数字だ。
 興味深いのは2番手以下。3128ヤード走って2位になったTobin Rote"http://en.wikipedia.org/wiki/Tobin_Rote"は50~60年代に活躍したQBで、NFL及びAFL両方のチャンピオンシップに出場したことがある唯一のQBである。3位には一時期RoteとともにDetroitでQBをやっていた殿堂入り選手Bobby Layne"http://en.wikipedia.org/wiki/Bobby_Layne"が2451ヤードで入り、一般的なランキングでは3位のYoungがこちらでは4位(2184ヤード)になっている。
 5位のSteve McNair(2023ヤード)までが2000ヤード超を記録しており、6位のKordell Stewart(1826ヤード)から19位のVince Young(1010ヤード)までが1000ヤード台だ。通常ランキングで2位のCunninghamは1391ヤードの8位にランクを下げており、通常4位のTarkentonは9位(1337ヤード)になる。代わりにBabe Parilli"http://en.wikipedia.org/wiki/Babe_Parilli"(1522ヤード)が7位、Billy Wade"http://en.wikipedia.org/wiki/Bill_Wade"(1334ヤード)が10位など、古いQBがずっと順位を上げる。
 通常ランキングから大いに順位を下げる典型例はJohn Elwayだ。通常なら彼は3407ヤードを走りランキング7位に顔を出している格好になるが、一方で実は3785ヤードもサックで失っている。合計マイナス378ヤードという数字は202人中106位と真ん中より下であり、Joey Harrington(マイナス368)より少し下でJoe Montana(マイナス419)よりは上といったポジション。Elwayは実はそれほど走れるQBではなかった、と解釈することも可能だ。
 逆に思いっきり下位に顔を出している選手はだれか。最下位はSteve Bartkowskiのマイナス2717ヤード。最近のQBではJeff George(マイナス2384)やDrew Bledsoe(マイナス2371)といったあたりもろくに走れないQBの代表と言える。通常のラン獲得ヤードでたった87ヤードと本気で全く走らなかったDan Marinoだが、彼はサックも少なかったためこの方式で計算してもマイナス1843ヤードと思ったほどマイナスが大きくはなかった。
 さらにこの「旧ランヤード」を試合数で割るとどうなるか。やはりトップはVick(32.3)、2位にはRote(21.0)となるのだが、3位にはVince Young(16.8)が登場するし4位に入るのはAl Dorow"http://en.wikipedia.org/wiki/Al_Dorow"(16.7)である。逆に下位はBartkowski(-21.1)がどん底なのは同じだが、他にGeorge(-18.2)、Ken O'Brien(-17.5)、Marc Bulger(-16.3)といった選手が目立つ位置に入る。Marinoはマイナス7.6とMark Sanchez(-7.7)よりマシなくらいだ。
 
 VickやVince Young、Kordell Stewartが上位に来るランキングなど、QBの能力を測るうえでは何の役にも立たないと見なすべきものであろう。1試合当たりの「旧ランヤード」が高く、なおかつ殿堂入りを達成できたほど有能なQBといえばSteve YoungとかBobby Layneなど限られた数しかない。一方でMarinoやDan Fouts、Jim Kellyなど、この数値が低くても殿堂入りしたQBはいる。
 やはりランの成績自体はQBの能力を知るうえで参考にならないデータと見ていい。重要なのはランではなくパスの効率。例えば2012年シーズンではたまたまこの「旧ランヤード」上位にGriffin(598ヤード)、Newton(497ヤード)、Wilson(286ヤード)といった優秀なQBたちが並んだが、一方で下位の中にも31位のMatt Schaub(マイナス225)や28位のDrew Brees(マイナス185)などがいたし、Peyton Manning(マイナス131)やTom Brady(マイナス150)も数字は悪かった。面白半分で調べてみるにはいいデータだが、意味がある統計ではない。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック