選挙とクーデター

 エジプトでクーデターが起きた。初めて選挙で選ばれた大統領がたった1年で軍事力によってその権限を奪われたわけであり、そうした外見だけ見るなら非民主的であると批判が集まるのも当然である。だが、中にはそうでない意見もある。
 たとえばこちら"http://etawill.com/c_int/7445/"のコメント欄。「合法的な選挙で選ばれたヒトラーは正しかったんですか?」と指摘し、さらに「危険な独裁化を狙うようなヤツを民主主義の原理で守る必要は無い」と述べている。またこちら"http://mote-ki.com/2013/07/egipt01.html"にも「文民政権がヒトラーでもクーデター反対する?原理原則を守ればよい結果をもたらすとは限らない」との文章がある。
 中でもクーデターに対し「国民のたたかいが、歴史の新たな扉を切り開いた」とまで書いているのがしんぶん赤旗"http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-07-05/2013070511_01_1.html"。軍部のクーデターを容認どころか絶賛しているとも読める記事であり、色々な意味で味わい深い文章だ。
 ただしこうした意見に全く裏づけがないわけではない。モルシ大統領はかつて「大統領は、革命を守るためにいかなる決定・措置も下すことができる」「大統領の決定や法令は絶対的なものであり、異議申し立てはできない」と定めた新しい憲法宣言を出しており、そのために多大な非難を浴びたことがある"http://www.afpbb.com/article/politics/2913006/9883914"。この大統領令は結局撤回されたのだが、古いアニメ風に言えば「ヒトラーの尻尾」と言われても仕方ないような内容ではある。
 
 民主政の手続きに則って選ばれた政権が民主主義を否定するような政策を実行するのはどこまで容認されるのか。この問題は民主政という仕組みについて回るものだろう。今回のエジプトや、あるいはワイマール共和国もそうだが、もっと古いフランス革命期にも見られた問題である。総裁政府は選挙に様々な規制をかけ、それでも足りない場合はクーデターによって多くの議員を当選無効にした。例えばフリュクティドールのクーデターでは王党派の議員たちが逮捕、追放されている。
 民主政は現体制や制度を否定する政治勢力が選挙によって多数派になる可能性を孕んだ仕組みである。そうした政治勢力が民主的に政権の座につき、その後で民主的な手続きを完全に破棄してしまうことだってありうる、というか実際に過去にあった。おそらく将来も起こり得る事態であろう。その場合にはどう対処すべきなのか、正解は思いつかない。
 また民主的な手続きがいくら行われていても、完全に形式だけになってしまっている場合はどうなのかという問題もある。世界の中には投票率ほぼ100%の国もあるが、その国が素晴らしい民主政国家であると考える人はほとんどいるまい。ことほどさように民主政ってのは難しい。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック