ジョミニの書いた本の中にVie politique et militaire de Napoléon"http://books.google.co.jp/books?id=3ZQTAAAAQAAJ"というものがある。最初は匿名で出版され、中身はナポレオンの1人称という形式で書かれていた。彼の書いたフランス革命戦争の本に比べれば内容は薄いが、それでも全4冊に及ぶ長い本である。 そしてこちらの書物には英訳本がある"http://books.google.com/books?id=mRBbAAAAQAAJ"。フランス革命戦争よりもナポレオン戦争の方が読者がつくと思った出版社がそちらを優先的に翻訳した、わけではない。実は英訳本はある人物が長期旅行の暇な時間に取り組んだものであり、翻訳に至ったのもたまたまだったようだ。 何より面白いのは翻訳した人物だ。彼の名はHenry Wager Halleck"http://en.wikipedia.org/wiki/Henry_Halleck"。南北戦争で一時、北軍の総司令官を務めた人物である。ジョミニ自身も戦争に参加したことのある人物だが、その英訳本を書いたのもまた戦争に携わった人物だったわけだ。彼らが有能だったのか、それとも軍人が仕事以外に労力を割く余裕があったよき時代ならではと見るべきか。いずれにせよ興味深い。 という訳でそのHalleckが書いたジョミニ本の緒言を翻訳してみた。残念ながら日本語訳は戦争とは無縁の人物によるものである。
「英訳者緒言 以下の翻訳は1846年に行ったニューヨークからカリフォルニアまでの7ヶ月の旅行の間にしたものである。一つには軍事研究のため、一つにはホーン岬を回る長く退屈な旅行の暇つぶしのためだった。翻訳終了後、原稿は16年以上も仕舞われたままでほとんど忘れられていた。 現在行われている戦争[南北戦争]は軍事書籍への、特にジョミニの著作への関心を呼び起こした。彼のナポレオンの生涯についてはこれまで英訳本が出版されたことはなく、フランス語の本を入手するのも極めて難しい。こうした事情と、幅広い需要に応えるため、この翻訳を印刷する。翻訳者は本職の任務のため自ら適切な注意を払うことができないが、軍の友人が親切にも出版の監修を申し出てくれた。 原書第4巻の出版の間、原著者の第24章の原稿がなくなり、1815年戦役に関するとても短い挿話が差し替えられた。後に原稿は発見され、改めてより詳細な形で出版された。翻訳にはこの二度目の出版の内容を組み込んでいるが、本来の章の精神と正確は保たれている。 この例外を除き、現在ほとんど関心を持たれていない主題に関連するほんの僅かな段落を少しばかり要約した他は、ほぼ文字通りに翻訳した。原著者の脚注はほぼ全て本文に統合しており、翻訳における脚注は訳者にのみ責任がある。 ジョミニのオリジナルの地図は再出版すると高価になりすぎると思われたので、A・K・ジョンストンの地図(そのほとんどはジョミニの地図を編集したもの)に差し替えた。 H. W. H. ワシントン、1863年4月」
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