拡散

 このところしばらく書いていなかったが、Vocaloid関連については最近「拡散」が進んでいるように感じる。例えばこちら"http://ascii.jp/elem/000/000/789/789718/"。別に今に始まった話ではないが、初音ミクやクリプトン以外のVocaloid使用がじわじわ増加する傾向にある。もちろん基本は今でも初音ミクの一本足打法だが、それでも他のボイスバンクへの拡散が進んでいるのは事実だろう。
 それを象徴する話がこちら"http://natalie.mu/music/news/91827"。NHKの「みんなのうた」で8~9月にGUMIの新曲が流れるという。「みんなのうた」で合成音声がリードボーカルを務めるのはもちろん初めてだろう。今までこの手の「合成音声初」はほとんど初音ミクのものだったのだが、他のボイスバンクが使われるのはそれだけ裾野が拡大したことを示すと考えられる。Vocaloidを開発したYAMAHAにとってもうれしい話だろう。
 使われる場についても拡散が進んでいる。以前から学校の校内放送でVocaloid曲が流れるという話はよく聴いていたが、最近は運動会で流れるのも珍しくなくなっているようだ"http://vocaloid.blog120.fc2.com/blog-entry-15648.html"。いやまあこれも別に目新しいわけじゃなくて、たとえば2011年にアップされた動画"http://www.youtube.com/watch?v=Bg2VjkJMwh0"でも、2012年の調査"http://vocaloguide.com/archives/7311"でも、Vocaloid曲が顔を出してはいる。運動会のダンスでVocaloid曲を踊る"http://inazumanews2.com/archives/27701865.html"小中学生は、結構な数に上っているのかもしれない。
 曲ジャンルの拡散も進む。もちろん本流はこちらの分析"http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-548.html"にもあるようなガラパゴス的J-POPと似た路線なんだろうけど、それ以外でも使われる事例が増えている。これまた最近の話というわけではないが、一例が去年のクラシックコンサート"http://columbia.jp/ihatov/"だし、最近話題になったのは、以前山口で上演し、今度は東京でも上演"http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/13_end.html"を行ったオペラ。さらにアート展示で初音ミクが使われる"http://www.youtube.com/watch?v=_c-kj5EI2Qk"など、オタク文化とは縁遠い分野で大っぴらに登場する例が増えてきた。
 オタクとサブカルはなぜか昔から仲が悪く、今回のオペラでも昔ながらのファンらしい人がネット上で文句をつけている例がある。でもまあ称賛だけでなく賛否両論が飛び交うのは興行としてはありがたいところだろう。実際、このオペラはパリでの公演も決定している"http://chatelet-theatre.com/2013-2014/the-end-fr"。山口からスタートして東京、パリと出世魚みたいに進んでいるのだから、興行としては成功と見なしてよさそうだ。
 Vocaloidの海外進出については、熱狂的なファンはいても市場としては日本一国に劣るという指摘もある。Google Trendsで「初音ミク」と「Hatsune Miku」を検索してみても、それは感じるところだ。そのせいか、2011年のMikunopolis以降、海外でのライブはアジア地域に限定され、他の地域にはなかなか進出できていない。いかにもなオタクコンテンツではなく、おしゃれな芸術品として模様替えしたうえで改めて出直すってのは確かに一つの戦略だろう。
 ただ、海外におけるオタク的売り出し方がなくなったわけではない。むしろ地元の有志が行う小規模なライブのような「身の丈にあった」取り組みが拡散しているのが現状である。特にアジアに次いでVocaloidの人気が高い中南米では、そうしたコンサートが相次いでいるという"http://vocaloid.blog120.fc2.com/blog-entry-15594.html"。コアになる企業や人材だけが取り組んでいた時代から、より幅広い層に拡散し、色々な人が使う時代へ。この6年の間にVocaloidはそのように変質してきたのだろう。
 
 さて、そんな初音ミクの動向を見ていて感じるのは、以前にも書いたSFが辿った道"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/52117727.html"との類似だ。Vocaloidが拡散し、今まで使われなかった場所にどんどん出て行くようになった結果、古参の中にはそれに違和感や反感を表明する人が増えてきた。彼ら彼女らの中には「Vocaloidはこうあるべき」という一種のイデアがあるんだろう。でもそれはSFがスノッブな存在になっていったのと同じ現象を引き起こすきっかけになりかねない考えだろう。こうでなければならないと枠をはめた瞬間、初音ミクはSFのように「死んで」いく。大衆文化とはそういうものだ。
 でもこれだけVocaloidの拡散が進んでいる現状を見れば、多分そうなったとしても心配はない。初音ミクや今一般に言われている「ボカロ曲」は死ぬかもしれないが、というか流行り物である以上いずれは死ぬが、初音ミクがもたらした音声合成ソフトの音楽使用やN次創作といった文化、あるいはバーチャルアイドルのような概念などは、他分野へ紛れ込みそこで生き延びていく。そこで新たな花を開かせることもあるだろう。「SFは死んだ」と言われる時代に、初音ミクが一世を風靡したように。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック