加重平均と単純平均

 Byron Leftwich"http://www.nfl.com/player/byronleftwich/2505673/profile"は今年でプロ11年目を迎えるベテランQBだ。2003年ドラフト1巡でJacksonvilleに指名され、それから3年めまではチームの先発を務めたが2006年の途中からDavid Garrardに先発を奪われた。以後、彼はジャーニーマンとなり、Atlanta、Pittsburgh、Tampa Bayとチームを渡り歩く。2010年からはPittsburghでけがの多いBen Roethlisbergerの控えというポジションが定位置になった。現在はFAで、行き先はまだ決まっていない。
 Leftwichのキャリア成績を見るとANY/Aは5.51、ANY/A+はちょうど100だ。シーズン100試投以上を記録した年のANY/A+は91~111の範囲にとどまっており、要するにQBとしては非常に平均的な成績をコンスタントに残してきた選手だと言える。だが3年半で先発を追われたってことは、チームやファンにとって「平均的」なQBでは不満足だったのだろう。ただしLeftwichに代わったGarrardもキャリアANY/A+は102とほとんど同じレベルで、そのGarrardに代わったGabbertの惨状に至ってはご存じの通りだが。
 Leftwichに限らず、シーズン平均(つまりANY/A+が100前後)の成績しか残せないベテランQBは先発の仕事を失う事例がよく見られる。HasselbeckはキャリアトータルでANY/A+101だが、今年は2年めQB(昨年のANY/A+97)の控えになる。Shaun Hill(ANY/A+100)もDetroitで控えをやっているし、Charlie Batch(ANY/A+98)はLeftwich同様に行き先未定のFAだ。もちろんMichal Vick(ANY/A+100)やJay Cutler(ANY/A+101)のように平均レベルでも先発の座を確保しているQBもいるが、決して多くはない。
 
 だが、Leftwichは本当に「平均的」なQBなのだろうか。見方によってはそうでない可能性がある。Leftwichをクビにして、代わりにNFLで一定のプレイをしたQBを無作為に連れてきたとしよう。彼がLeftwichよりいい成績を残せる可能性と、逆に成績が悪化する可能性は、それぞれどの程度あるだろうか。一見して五分五分になるのが当たり前と思うかもしれないが、実は違う。いい成績のQBを引き当てる可能性は、実は3割にも満たないのだ。
 1978年から2012年までキャリアトータルで224試投以上を記録したQBを並べてみよう。対象は244人いるが、このうちANY/A+が100の選手は上から数えて81番目(全体の33%)、101以上(つまりLeftwichよりいい選手)は68位(28%)しかない。244人のうち3分の2はANY/A+が100未満、すなわち「平均以下の選手」たちなのである。
 ANY/A+はリーグ平均に対して標準偏差でどの程度離れているかを表した指標だ。リーグ平均をANY/A+100として算出しているため、あるシーズンにおけるリーグの平均成績が100なのは間違いない。にもかかわらず、どうして3分の2もの選手たちが平均にすら及ばない成績にとどまっているのか。理由は簡単。彼らはすぐクビになってしまうからだ。一方、平均よりいい選手のキャリアは長い。少数の優秀なQBが多くのプレイを積み重ねる一方、多数の凡庸あるいはそれ以下のQBは少ないプレイで見切られ、次々と交代していく。ANY/A+100とはそれらの「加重平均」なのだ。
 実際、上記の244人について試投+サックの実績数字を調べてみれば、いいQBのプレイが多くダメQBのプレイが少ないという傾向が明確に出る。244人を61人ずつの4グループに分けると、最も上位の4分の1は平均3940パスプレイを記録しているのに対し、2番目は2148、3番目1171、そして最も下位の4分の1は637回しかパスプレイをさせてもらっていないのだ。ピラミッドのトップにいる上位にプレイ回数が集中し、底辺はほとんど機会が与えられていないあたり、ネットの人気構図と似ているとも言える。
 ゲームの内容を見るうえで参考にする指標としては加重平均の方がふさわしいだろう。しかし新たなQBを雇う場合、即ちQBたちを集めたプールの中から誰か1人引っ張り出すことを考えるなら、加重平均より「単純平均」を見た方がいい。そして上記244人のQBについてキャリアANY/A+の単純平均を出すとその数字は93.3になる。中央値で見ても真ん中に位置する選手のANY/A+は93。これこそが「NFLである程度のプレイ機会を与えられたQBたち」の平均的な能力である。それに比べればLeftwichの100は随分高い。平凡と見られていた彼は、本当はかなり優秀なQBだった、と見なすこともできるのだ。
 
 この問題は、現在のQBに不満を抱えているチームがQB交代に踏み切るべきかどうかを考えるうえで大きな問題をもたらす。ANY/A+が100を割り込んでいるからといって安易に切り捨てたとしても、それを上回るQBが入手できる確率は無作為で30%弱。よほどうまく次のQBを選ばなければ、交代によってかえってマイナスになりかねない。しかしだからと言ってANY/A+が93以上なら交代を差し控えるというのも拙い。平均を下回るQBを使い続けるのもまた、チームにとってはマイナスだからだ。
 理想を言えばANY/A+が100を大きく上回ると期待できるQBがFAなどで市場に出てきたところを捕まえる方法だろう。でもそんな事例はほとんどない。最近10年ほどを振り返っても、それに相当する事例はBreesとManning兄くらいか。ANY/A+が高い他の選手を見てもドラフト(Rodgers、Griffin、Brady、Rivers、Wilson、Roethlisberger、Ryan)で取得したのが大半。新人FA(Romo)やトレード(Schaub)で大当たりを引いた事例は少ない。極めて難しい「ドラフトで将来の能力を推定する」作業に頼らざるを得ないのだ。
 長い低迷が続くチームを見ると、いかにQBで苦労しているかが分かる。Gannonなき後のOakland先発QBは長くても2年しか持ちこたえていない。BuffaloはFlutieより後、キャリアANY/A+が100以上のQBがいない状態が続いている。2002年から12年まで100試投以上を記録したQBが2人しかいないNew Englandに対し、次々とQBを交代せざるを得なかったClevelandは11人を投入。その中にはドラフト1巡指名が3人も紛れ込んでいる。それでも同じ期間に15人を投入したMiamiよりはマシかもしれない。それだけ「いいQB」を引き当てるのが難しいとも言える。
 いかにいいQBと巡りあうかは、チームにとって重要な問題だ。しかし最もオーソドックスな入手法であるドラフトは当たり外れが激しい。何しろドラフトにおいてQBはbustを引く確率が最も高いポジションなのだ"http://www.footballperspective.com/which-positions-are-the-safest-to-draft-in-the-first-round/"。だからと言って他の手段で手に入れるのは機会が少な過ぎる。多くのチームでQBが話題の中心となるのは、こうした現実を見る限り当然のことだと判断できる。
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