機械vs人間

 機械との競争"http://www.amazon.co.jp/dp/4822249212"読了。IT技術の進歩が早すぎるため人間側が対応しきれず、結果として人間の雇用が機械に奪われているという説を主張した本だ。著者たちは米国の学者であり、基本的に技術の進歩は経済成長につながるという考えの持ち主だが、人間側が新しい技術にあわせて柔軟に仕事を変えていけない場合には、機械が人間に取って代わってしまうケースが起きると見ている。
 現在、機械に雇用を奪われているのは主に中間層であり、資本家たちや、逆に肉体労働の方はそれほど奪われていないと著者たちは指摘する。確かにITが仕事を奪ったのは事務職であり、ブルーカラーよりはホワイトカラーの影響が大きいように見える。でも製造現場だってどんどん自動化が進み、ブルーカラーも仕事がなくなりつつあることもまた事実。このあたりはITバブル前から製造業がメタメタになっていたアメリカと、なお製造業の存在が大きい日本との差かもしれない。
 いずれにせよ技術の進歩が人間の想像を超えた早さで進み、それに人間が追いつけていない面は確かにある。例えば自動車の自動運転は既にgoogleが達成しているし、最近の3Dプリンターの発展ぶりはCADさえできれば工作機械はいらないケースさえ出てきかねない勢いだ。以前書いた"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/53818827.html"「ロボット兵士の戦争」もそうだが、コンピューターや機械の発達は当該分野に詳しくない人間の度肝を抜くだけのインパクトがある。
 そうなると思い出すのが電王戦"http://ex.nicovideo.jp/denousen2013/"。機械との競争ではチェスに勝ったコンピューターの話も出てくるんだが、将棋でも勝つようになってきたのは一連の技術進歩を踏まえるのなら当然の結末ではあったんだろう。
 そしてチェスにおいて人間とコンピューターが手を組んで勝負するようになったのと同様、他の分野でも人間は機械と手を携えて競争していくべきだ、というのが著者らのまとめだ。技術は人間から職を奪うこともあるが、その代わりに新しい雇用を山のように生み出す。内燃機関の登場で馬や馬車関連の業者は仕事を失ったが、代わりに自動車に関連する仕事が次々に現れ経済成長をもたらした。
 コンピューターの世界も、かつての自動車業界がそうだったように、急激に雇用ニーズが高まっている。IT業界でしばしばデスマーチなどという言葉が飛び交っているのは要するに人手不足が激しいからだ。だが人間の側はそう簡単に新しい仕事に対応できない。世代丸ごと交代するだけの時間があればおそらく対処できるようになるが、その頃には技術の方がさらに先に進んでいる可能性もある。技術の発展と人間側の対応という「いたちごっこ」は、資本主義社会では永遠になくならないような気もする。
 つまるところ現代社会は忙しいってことだ。狩猟採集社会や、あるいは農耕社会でも、若いころに身につけた技術で一生食っていくのは難しくなかっただろう。でも今はそこに安住していると足元をすくわれる可能性がある。狩猟採集社会や農耕社会のように肉体労働にあえぐことは少なくなっているかもしれないが、代わりに死ぬまで勉強を続けなければならない。
 昔は文明が発展すれば人間は仕事をしなくても生きていけるようになると言われることもあった。もちろん、そんなユートピア社会は来なかった。この地上に楽園などない、ってのは古今を問わず真実なんだろう。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック