声と音

 世の中には「歌詞が聞き取れない曲」に我慢がならないタイプの人がいるらしい。私自身は声も音の一種と思っているので、聞き取れる(意味が取れる)かどうかよりも音楽として気に入るかどうかを重視しているが、歌詞を重視する聞き手であれば確かに聞き取れない曲には違和感があるところだろう。そういう人が、たとえば字幕つきのミュージカル映画の曲をどんな気持ちで聴いているのかは知りたいところである。
 歌詞を聞き取ることにこだわらなければ、割とどんな曲でも聴くことに対するハードルは下がる。たとえば洋楽。英語曲はもとより、他の言語の曲であっても、メロディーとか何とか気に入る部分があればそれでOK。たとえば私が若いころに聞いたこの曲"http://www.youtube.com/watch?v=1bwg3mu3Xak"などはポルトガル語だが、途中に入るハーモニカなども含めて楽しく聴いていたことを思い出す。ちなみにこのハーモニカはスティーヴィー・ワンダーが吹いていたらしい。こちらの曲"http://www.youtube.com/watch?v=TlGXDy5xFlw"も彼のハーモニカだとか。
 さらにそこから進めば、そもそも存在しない言語を使って歌わせることもあり、となる。意味を持つ言語ではなく音としての声に注目するんなら、別にその音に意味はなくても構わない。たとえば指輪物語のエルフ語はこちらの歌"http://www.youtube.com/watch?v=ww8wqEgFIA8"のサビで使われている。こちらの作曲家"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%85%E9%87%8E%E3%82%88%E3%81%86%E5%AD%90"は架空の言語を使った曲をいくつも作っており、こちら"http://www.youtube.com/watch?v=R69wYdjlY8E"もその一例である。
 考えてみれば普通の曲でも意味のないフレーズを人間の声で歌う場面はある"http://www.youtube.com/watch?v=NsarYvTyKhI"。声でなく音と割り切ってしまう聴き方は、母国語の曲しか聞かない人であっても実際にはやっているはずと言えるだろう。となるとあとは量的な許容範囲の問題となる。
 おそらくVocaloid曲を聴く人間は、そのあたりの許容範囲が広い(ルーズ)な人が多いんじゃなかろうか。実際、Vocaloid曲は聞きやすさで言えば人間より聞き取りにくいのは確かだ。それを受け入れて聴けるってことは、それだけ「意味」より「音」という聞き手が多いんだろう。この曲"http://www.youtube.com/watch?v=6hlADpxjj0s"のようにVocaloidの音をさらに加工する例もあり、声というより楽器としての機能の方が表に出ているように思える。まあ生身の人間の声についても同じ加工をする事例があるので、別にVocaloidに限った話ではないとも言えるが。
 意味より音という聴き方は別に目新しいものではない。中世にまで遡る歌"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%82%AA%E8%81%96%E6%AD%8C"など、少なくとも民衆に理解できる言葉ではなかっただろう。こちら"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%88%AC%E8%8B%A5%E5%BF%83%E7%B5%8C"も普通の日本人に理解できる言語ではないものの、以前から楽器を交えつつラップ風に唱えられていたし"http://www.youtube.com/watch?v=TPsYd7EXJOU"、こんなの"http://www.youtube.com/watch?v=EB-bYJoqvQQ"やこんなの"http://www.youtube.com/watch?v=3CcIH7oxBP4"だってある。
 そして、Youtubeで見つけたもっとも素晴らしいこの手の歌がこちら"http://www.youtube.com/watch?v=-xhZzkdj3PQ"。ここで使われている言葉は何とシュメール語である。アッカド王サルゴンの娘であり、女神官だったエンヘドゥアンナ"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%98%E3%83%89%E3%82%A5%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%8A"が残した「イナンナ女神賛歌」にメロディーをつけた曲であり、実在した言語でありながら現代人の大半には理解不能という凄い曲である。エンヘドゥアンナの歌の全文はこちら"http://etcsl.orinst.ox.ac.uk/cgi-bin/etcsl.cgi?text=c.4.07.2&display=Crit&charenc=gcirc#"、英訳はこちら"http://etcsl.orinst.ox.ac.uk/cgi-bin/etcsl.cgi?text=t.4.07.2#"。
 おそらく他にも探せばこういった「古代の今はなき言葉」を使った歌は見つかりそうだ。敢えて架空言語を作る必要すらない。メロディーさえ思い浮かべられるなら歌詞など思いつかなくても曲をでっち上げることは可能じゃなかろうか。いやさらに、どう見ても著作権の切れているメロディーを借りてくれば音を作る必要すらない。たとえばこの歌詞("http://books.google.co.jp/books?id=_G4yAQAAMAAJ" p172)ならYankee Doodle"http://www.youtube.com/watch?v=7XZQZ8KL3as"のメロディーに乗せて歌うことができそう。誰がやってくれないか?
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