野暮な話

 読んでない人にはさっぱり分からない話だろうが、最近読んだ漫画"http://www.gentosha-comics.net/spica/comics/manmanchanan/"について。といってもフィクションとしての面白さ云々とは全く関係ない、「作品内時間」についての想定というか辻褄あわせだ。フィクションの辻褄について論じるなど野暮以外の何者でもないが、気になったのでやってしまおう。
 何が気になったのかというと、この作品のヒロインが寺の跡取り息子と結婚した時期である。いったい彼らはいつ結婚したのか。
 
 第1話に描かれている2人の出会いの場ではヒロインがスイカを持って寺を訪ねている。だから季節は夏だろう。実際、後に第15話で明かされる跡取り息子の日記には「八月三十日」に『不本意な結婚話がすすめられる』と記されており、2人の出会いが8月末であったことが判明する。そして第1話には「それから一年、卒業を待って私は信玄[跡取り息子]さんのお嫁さんになりました」という文章がある。単純に考えれば翌年の夏が結婚の時期のように思える。
 だが気になる部分もある。「卒業を待って」という部分がそうだ。学校を卒業するのは3月。もしこの文章が「卒業を待ってすぐに結婚した」という意味を含むのなら、結婚の時期は翌年夏ではなく春(3月末か4月上旬あたり)とも考えられるのだ。その場合、「それから一年」というは、12ヵ月後ではなく単に「翌年」と同じニュアンスで使われた言葉だということになる。さて、どちらが妥当な考えだろうか。
 結婚してまもなく、跡取り息子の方は急な事故で死亡してしまう。その後、第2話で住職の妻(跡取り息子の母親)が「結婚してからはたった二カ月だったけど、つきあってたのは一年だった」と話している。これもまた微妙な言い回しだ。つきあい始めて1年たってから結婚し、その2ヶ月後に跡取り息子が死んだのか、それともつきあい始めから跡取り息子の死去までが1年だったのか、どちらとも解釈できる。前者の解釈なら結婚はやはり出会いの翌年夏になるし、後者の解釈なら結婚はその2ヶ月前、春または初夏と見なせる。
 一方「結婚は春説」を明確に支持する描写は第13話にある。ヒロインによる「知り合って二ヶ月」の時期の回想シーンで、彼女は「あと五ヶ月で結婚する」と述べている。知り合った時期が8月末なのだから、それから7ヶ月後となれば翌年3月末か4月初頭だ。こちらを素直に読めば卒業直後の結婚と解釈できる。ただし、これは結婚5ヶ月前の時点での想定であり、予定通りに進んだかどうかまでは保証の限りではない。
 何か他にヒントはないのか。困ったことにヒロインはお色気担当を兼ねており、やたらと薄着が多いので衣装から季節を推測するのが容易ではない。舞台が寺なので男性陣は軒並み僧衣であり、これまた季節感に乏しいこと夥しい。だが、探せばヒントは見つかる。
 第8話には春彼岸の法要向けに膳を用意する場面があり、そのためヒロインが塩漬け用の桜摘みをする場面がある。時期は跡取り息子が死んだ翌年の春だ。そこで登場人物の1人がヒロインに向かって「めぐりさんが去年お寺に住み始めて初めてやった仕事も桜摘みでしたもんね」と言う場面がある。ヒロインが寺に住み始めた時期が春であると言及しているのだ。普通に考えればその時期に結婚して住むようになったと考えられるだろう。彼岸前なので3月下旬、卒業直後の結婚と解釈できる。
 
 でもそう解釈すると別の問題も出てくるのだ。第2話ではヒロインが寺にある幼稚園を手伝っている場面で保育士が「まだ四十九日が明けたばっかなんでしょ?」と話し、跡取り息子の直弟子だった僧侶が跡取り息子の弟に向かって「四十九日はとっくに過ぎてるぞ」と指摘する場面があるので、この話が跡取り息子の死から49日を少し過ぎた時点の話であることが判明する。重要なのはその時期に幼稚園が平常運転していること。夏休みではないのだ。
 幼稚園の夏休みは、園によって異なるものの大体は小学校と似た時期にあるようだ。つまり跡取り息子の「四十九日が明けた」時期は7月中旬か、さもなくば9月以降となる。3月下旬に結婚し、2ヶ月後(5月下旬)に跡取り息子が事故死。それから49日が経過すると時期はちょうど7月中旬となり、夏休み前の幼稚園でヒロインが手伝いをすることができる。一見、辻褄が合うように見える。
 だがここで自然が反逆する。第3話の最初、おそらく第2話からあまり時期が経ってないと思われるこの場面で、跡取り息子の弟が「玉ねぎの植え付けをいつにしようかなーと思ってただけだ」と話す場面がある。玉ねぎは関東より南では秋蒔きが中心(この漫画の舞台はおそらく都内)で、植え付け時期は10~11月だとされている"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%AE"。だとすればこの場面は早くて9月、遅くとも10月前半あたりだろう。
 さあ困った。最初の想定では跡取り息子の四十九日が明けた時期は7月半ばとなっていた。でもこの「玉ねぎ」云々を考慮するのなら、その時期はむしろ9月だと考えた方が話がすっきりとまとまる。幼稚園が開いていたのは既に夏休みが終わっていたから。秋が深まる中で四十九日を過ぎてしまい寺とは縁がなくなったヒロインをどうするかが問題になっていく、という展開でなければ辻褄が合わない。
 でもこれが9月だとすると今度は結婚時期がおかしくなる。9月頭で「四十九日が明けたばっか」だとするなら、跡取り息子の死はどんなに早くても7月前半あたり。結婚はその2ヶ月前だから5月前半、ぎりぎり半月近くプラスするとしても4月下旬がいいところだ。春彼岸に備えて桜摘みをするのは到底無理である。
 話に整合性を持たせる方法は2つしかない。一つは第2話と第3話の間に2ヶ月が経過していたという解釈。だがそうだとすれば四十九日を過ぎた後、それより長い期間にわたってヒロインの処遇が決まらないままだったということになってしまう。それは流石に厳しい。もう一つの方法は、ヒロインと跡取り息子は正式に結婚する1ヶ月前から同棲していた、という解釈だ。僧侶が1ヶ月の同棲期間を持つ格好だが、まあそれを言うならそもそも僧侶が結婚すること自体おかしいわけで、従って個人的には後者の方がまだ妥当な考えじゃないかと思う。
 
 以上、読んでない人は当然として、読んだ人であってもわけの分からない話だろう。少なくともフィクションの面白さとは関係ないレベルの話であるが、いい暇つぶしになったのでよしとしよう。
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