HCとNY/A

 前にヘッドコーチの能力を分析してみたことがある("http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/52821041.html"と"http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/52825819.html")。そこでは素の実力であるNY/Aと勝率との間に、優秀な(200試合以上のキャリアを持つ)ヘッドコーチがどの程度の上乗せをするのかについて分析し、多くのヘッドコーチに共通しているのはパスの効率を示すANY/Aを得失点にうまく結びつける能力であるとの結論を得た。
 ただしNY/Aとヘッドコーチの才能については分析対象外とした。とはいえ優秀なヘッドコーチであればNY/Aを高める能力を持っている可能性はある。そこで改めて優秀なヘッドコーチを対象に、彼らがNY/Aにどれだけ上乗せできる力を持っているのかを調べてみた。
 
 まず彼らがコーチに就任する前3年間と、辞任した後3年間のチームの成績を調べる。それと彼らのヘッドコーチとしての成績を比較し、彼らの存在がチームにどの程度の成績上乗せ効果をもたらしたかを推定するのだ。前後3年ずつ採用するのは母数を増やすため。ただしこのルールで調べても比較対象の年数が少ないコーチはどうしても登場する(同一チームをずっと指揮しているコーチなど)。また、一部にやたらと短い就任期間(1年でクビなど)もあり、それについても前後3年ずつと比べるべきかは難しいところだが、一応このルールで調査する。
 もちろん期間は1978年から2011年まで。データはいずれも偏差値化して計算している。この方法で対象17ヘッドコーチの就任期間の成績と就任前後の成績を比較して加重平均を出すと、3.26のプラスになる(偏差値の加重平均は53.15)。つまり、チームの実力とも言えるNY/Aの部分にもヘッドコーチの能力が反映している可能性があるってことを示す。
 ちなみにこの数値は、ヘッドコーチが持っていると思われる「得失点-ANY/Aをプラスにする能力」よりも大きいようだ。加重平均で見たANY/Aはプラス3.11、得失点は5.02でその差は1.91と、NY/Aの上乗せ分の6割弱にとどまっている。最終的な勝率のプラス分は4.83となっており、有能なヘッドコーチが「NY/Aの上乗せ分」及び「得失点-ANY/Aをプラスにする能力」で勝ち星を稼いでいる様子も窺える。一方、「ANY/A-NY/A」と「勝率-得失点」がマイナスになっているのは平均への回帰で説明できるかもしれない。
 個別のヘッドコーチごとに見ても、NY/Aの上乗せ効果は明白だ。この数値がマイナスになったコーチはFisherのみ。しかも彼の場合は比較対象となる「前後の成績」が4年分しか取れず、極端な数値になっている可能性(前後の時期のNY/Aが57.37と平均を大きく上回っている)がある。実際、今年のSt. Louisの成績を反映させれば、少なくとも現状ではこの数字は大きく変わりそうだ。またReidも比較対象が3年分しかないため数値は怪しいが、彼は5.83の上乗せとなっている。
 プラスの幅が大きいのはGibbs(9.97)が突出しており、以下Reid(5.83)、Holmgren(5.82)、Turner(5.66)、Dungy(5.52)と続く。TurnerやDungyといった「得失点-ANY/A」がマイナスだったコーチたちがこの部分で大きく稼いでいることが分かる。もしこのNY/Aの上乗せ分も全てヘッドコーチの能力であるとしたら、彼らは決して無能ではなくむしろ有能な部類に入ると言ってもいいかもしれない。他に「得失点-ANY/A」でマイナスを記録していたMoraとGreenも、NY/A上乗せ分は立派にプラスだ。
 NY/Aに上乗せするヘッドコーチの能力とは何だろうか。一つ考えられるのは、試合でどの選手を使うかと言う決断だ。パーソネルに関する権限はGMにあると言われるが、GMは試合で使う選手まで決めるわけではない。それはあくまでコーチの責任である。また、たとえばQBに合ったパスオフェンスを採用することでQBの成績を伸ばすといった方法も、コーチによるNY/A上乗せ能力とみなせるだろう。
 
 以上の考察に問題点はないだろうか。一つは「NY/Aの上乗せ分が全てヘッドコーチのおかげとは限らない」という問題だ。DungyやMoraについてはIndy時代にPolianのおかげでこの数値を稼いでいた可能性がある、との指摘もあろう。ただMoraはNew Orleans時代だけで偏差値54.6、DungyもTampa Bay時代で51.33と50を超える数字を残している。確かにIndy時代よりは低い数字であり、その意味でPolian効果の追加分があることは否定できないが、しかし全面的にPolian頼みのコーチだったわけでもない。同じことはA. J. Smith頼りと言われるTurner(San Diego以外で51.33)にも言える。上乗せ分全てではないにせよ、一部はコーチの能力によると見ても問題はないだろう。
 偶然がもたらす影響はどう見るべきだろうか。ここまで取り上げたコーチたちが「運よくNY/Aが前後の時期よりプラスになるシーズンが多かったおかげで職を失わずに済んだコーチたち」である可能性はないとは言えない。たとえば調査対象コーチの中で最もキャリアの長いReevesの偏差値は47.36と50を割り込んでいる。たまたま前後の時期がそれより悪かったおかげでキャリアを続けられたとも言えるのだ。他にもLevyは17年のキャリアのうち9年で偏差値50未満だった。いや、数字のいいコーチにしても自分の実力ではなく運が良かっただけかもしれない。
 とはいえ、大半のコーチはキャリアの半分以上で高い偏差値を出し、長い時期を通算して前後の時期よりいいNY/Aを出している。1人や2人しかそういう事例がないのなら「偶然の影響」もありうるが、17人調べて16人がこれだけいい数字を出しているのなら、NY/Aにもコーチによる上乗せ分はあるとみなしていいだろう。どの程度の上乗せ幅がヘッドコーチのおかげだと見るべきかについて明白な答えは出しづらいが、チームの素の実力であるNY/Aを高めるのも有能なヘッドコーチの条件と言えそうだ。
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