第4のドメイン?

 こんな記事"http://shinka3.exblog.jp/18493096/"があった。ウイルスが第4のドメインであるという論文を紹介したものだ。blogの書き手はウイルスが生物か否かにこだわっているようだが、実際に最も面白いのはおそらく「タンパク質の立体構造を使って系統を調べた」という部分にあるのだろう。ウイルスが生物が否かどころか、ウイルスが第4のドメインであるという議論ですら、既に1年以上前の別blogに載っている"http://d.hatena.ne.jp/semi_colon/20110811/p1"ため、目新しさは多分ない。
 2つ目に紹介したblogによれば、ウイルスの遺伝子を調べる場合に問題となるのはウイルスが水平伝播で他の生物から盗んできたものが混じっている可能性がある点だそうだ。果たして立体構造の調査によってその可能性が排除されたのか、それとも調べなおすとやはり水平伝播の可能性があるのか、そのあたりまではまだ分からないし、今回の論文だけでウイルスが第4のドメインだと決めつけるのはおそらくまだ早いのだろう。
 何より疑問なのが最初のblogでも紹介している系統図。これを素直に見るのなら、まず最初に分岐したのがウイルスであり、その後に古細菌が、そして最後に真正細菌と真核生物が分岐したことになるんだが、これは一般的なウイルスを対象外にしたドメインの分岐説(まず真正細菌が分岐し、その後で古細菌と真核生物が分岐した)とは矛盾している。ドメイン説はそれなりに多くの裏づけがあって受け入れられているのであり、それに反する調査結果はこの論文の蓋然性をそれだけ下げる要因と言える。
 論文そのもの"http://www.biomedcentral.com/content/pdf/1471-2148-12-156.pdf"のConclusionsを見ると、ウイルスについて「彼らは共通祖先(LUCA)以前に遡るか、あるいはそれと共存していた独特の古い生命の様式を表しているようだ」と指摘している。となると興味深いのは、ウイルスはLUCAより以前に分岐したもの、つまりLUCAとウイルスの共通先祖がいたのかどうかだ。普通に考えればそういうのがいたとみなすべきなんだろうが、もしかしてウイルスだけは別のものから生まれたという可能性はないのだろうか。
 こちら"http://blog.goo.ne.jp/elizabethq/e/73df0297546f6606fc60720a807d9ad3"ではウイルスの誕生についていくつかの説を(かなりラフに)紹介している。それによると「ウイルス最初からいたもんね説」はあまり人気がないらしいが、それでも説自体は存在するようだ。他には原始的な生物の中から一部が飛び出していってウイルスになった「逃げやがったなこの野郎説」と、他の生物に寄生するようになった連中がいくつもの機能を失ってウイルスになった「いらないものは捨てちゃった説」があるのだとか。ミミウイルスやママウイルスといった巨大ウイルスの存在を見ると、3番目に相当するウイルス退化説を唱えたくなる気持ちも分かる。
 いずれにせよ論文1つで結論が出るもののようには思えない。これからいくつもの研究が積み重ねられる中で、もしそれが妥当だという論文が増えてくるのなら、その時にウイルス=第4のドメインという説が通説になるのだろう。とはいえ最近はこの手の研究の世界も日進月歩なので、意外に早くそれが通説になる可能性もある。
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