確率と双子

 こちら"http://d.hatena.ne.jp/trivial/20120915/1347699686"で、とある小説に出てくる以下の文章が取り上げられ、「間違っているのではないか」と書かれていた。
 
=====以下引用=====
 
「ある夫婦に双子の子供がいて、片方が女の子だとわかっている場合、残りの一人が女の子である可能性は?」
【略】
「2分の1じゃないの?」
「3分の1」
【略】
「これは、起こりうる事象がすべて把握できているから、そういう認識の齟齬が生じる。双子の組み合わせを考えれば、男・男、男・女、女・男、女・女の4通りでしょう? そのうち片方が女なら、もう一人が女である可能性は、女・女の組み合わせしかない。だから、3分の1」
 
=====引用終了=====
 
 うん、多分間違っている。しかも二重に。1つ目の間違いはこちら"http://d.hatena.ne.jp/kojette/20090809/1249818571"を読んでもらうと分かるんだが、「片方が女の子だとわかっている」情報がどのように出てきたのかについて曖昧な書き方がされていることに由来する。こちらのblog"http://d.hatena.ne.jp/pashango_p/20090809/1249805193"で書き直されているように、2人の子供について「女のお子さんはいますかと聞いたらはいと答えた」と書かれているのなら、答えは3分の1でいい。だが引用文のような書き方なら「たまたま片方が女であることを知ったが、それが男であった可能性もあった」と解釈できるため、2分の1と答える方が妥当になる。
 2つ目の間違いは「双子」だ。なぜよりによって双子にしたんだろうか。双子の場合、一卵性双生児というものがいて、極めて数の少ない例外を除いて彼/彼女らの性別は同じだ。一卵性双生児が生まれる確率は1000分の4程度。一方、二卵性双生児の生まれる確率は人種ごとに異なる"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8C%E7%94%9F%E5%85%90"うえに、人工授精の導入で確率が変わったりする。日本の場合、1974年ごろの双生児出生頻度は1000分の6弱、つまり二卵性は1000分の2弱だった。しかし人工授精で複数の受精卵を子宮に戻すようになって二卵性の出生が増え、2003年には双生児出生頻度が1000分の10を上回った(二卵性は1000分の6強)という。最近は複数の受精卵を戻すのをやめるようになったため、また頻度が下がりつつある。
 と言うわけで双子の子供の性別に関して確率の計算をしたいのなら、そもそもこれがどの国のいつ頃の話であるかを決めなければいけない。取りあえず2003年ごろのデータに基づき、一卵性双生児が1000分の4、二卵性双生児が1000分の6で生まれると考えて計算してみよう。
 まずこの双子が一卵性である確率は4/10。一卵性の場合、性別は基本同じなので「男男」「女女」の確率がそれぞれ1/2ある。一方、二卵性双生児である確率は6/10であり、この場合は「男男」「男女」「女男」「女女」の確率がそれぞれ1/4ずつある。さらに二卵性双生児の「男女」「女男」から「片方は男」「片方は女」という情報が出てくる確率を1/2と考える。以上を整理すると次のようになる。
 
一卵性男男で「片方は男」 4/10*1/2*1=1/5
一卵性女女で「片方は女」 4/10*1/2*1=1/5
二卵性男男で「片方は男」 6/10*1/4*1=3/20
二卵性男女で「片方は男」 6/10*1/4*1/2=3/40
二卵性男女で「片方は女」 6/10*1/4*1/2=3/40
二卵性女男で「片方は男」 6/10*1/4*1/2=3/40
二卵性女男で「片方は女」 6/10*1/4*1/2=3/40
二卵性女女で「片方は女」 6/10*1/4*1=3/20
 
 で、このうち「片方は女」全体(1/5+3/40+3/40+3/20)のうちもう一人が女(1/5+3/20)になる確率を計算すると(1/5+3/20)/(1/5+3/40+3/40+3/20)=7/10。つまり「ある夫婦[日本人]に双子の子供[2003年前後に生誕]がいて、片方が女の子だとわかっている場合、残りの一人が女の子である可能性」は7割となる。文中にある「2分の1」も「3分の1」も間違い、という結論になりそう。
 これが「双子の子供がいて、女のお子さんはいますかと聞いたらはいと答えた」場合には計算が変わってくる。一卵性、二卵性それぞれ女がいる場合全体(1/5+3/20+3/20+3/20)のうち、もう一人が女(1/5+3/20)の確率は(1/5+3/20)/(1/5+3/20+3/20+3/20)=7/13。半分を少し超えるくらいだ。「双子」という条件によって、ただの「2人の子供」とは随分数字が違ってくることが分かる。
 というか、たとえ本文が「2人の子供」であっても本来なら0.4%くらい存在する一卵性双生児を計算に入れなければならないんだろう。まあ誤差の範囲だとは思うけど。
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コメント

No title

狼少年
他のサイトでの突っ込みもここでの解説も分からないので教えてください。
>片方が女の子だとわかっている場合
これがどうして問題の固定した前提にならず、疑われるのでしょうか?
>「たまたま片方が女であることを知ったが、それが男であった可能性もあった」
という解釈ができる余地を見出すのなら、
>ある夫婦に双子の子供がいて
ここだって双子ではない可能性があるって前提否定が入りませんか?

双子の前提が無条件に受け入れられて、女の子がいる前提は受け入れられないとの論理は成立するんでしょうか。

一卵性でも二卵性で、生まれる確率に差が出るのは分かりますが、なんで出産後の確率に差異が出るのでしょうか?

二重の指摘とも難解でしたのでご教授お願いします。

No title

rot*on*li*ht
狼少年様
単純な解説をすれば双子の組み合わせは『両方女』『両方男』『男女一人ずつ』の3通りです。回答における『男・女』『女・男』は同一の事象なので片方が女の場合組あわせは『両方女』か『男女一人ずつ』の2通りなので1/2が妥当となります。

No title

rot*on*li*ht
双子ではなく2人の子供がいる場合の組み合わせは表記の4通り、そのうち女が片方に存在する組み合わせが3通り、さらにその中で両方が女である可能性の場合の時のみ1/3が妥当な解となります。

No title

狼少年
rot*on*li*htさん
説明ありがとうです。
でも、これはわかるのです。
わからないのは、
>片方が女の子だとわかっている場合
の説明で、
>「たまたま片方が女であることを知ったが、それが男であった可能性もあった」
と深読みする点です。
それと、
一卵性と二卵性では、男女の生まれる確率に差があるとしても、生まれた後には関係ないことではありませんか?

これがわからないのです。

No title

rot*on*li*ht
これらの問題を複雑にしているのは双子という事象なのでそれをまず置いて考えましょう。
ついでに男と女が50%の確率であるというのが絶対的な条件なのですがこれも置いておきます。

こちらは『「片方が女」という情報が出る確率』を考えた場合の確率はどうなるかという問題です。

まず単純に2人の子供がいる場合
『男2人』=1/4
『女2人』=1/4
『男女』=2/4
で子供の組み合わせが存在します。

前提条件として『女がいる場合にはかならずいるという情報が表示される』
場合、
『男2人』『女2人』『男女』の組み合わせにおいて
片方が女と表示される可能性は
『男2人』=0%
『女2人』=100%
『男女』=100%
となるため、
片方に女性がいる場合にもう片方が女性である確率は

『女2人』÷(『女2人』+『男女』)=1/3になります。

No title

rot*on*li*ht
しかし男女両方がいる場合女がいると表示する可能性は50%の場合
片方が女と表示される可能性が
『男2人』=0%
『女2人』=100%
『男女』=50%
となるため、男女なのに『女がいる』ということがわからない可能性が存在することになります。

とすると、
双子の性別は

『男2人』の場合(1/4)
『女2人』の場合(1/4)
『男女』の場合(2/4)
にくわえて
『男女の場合に「女がいる」と表示される確率』が男女に適用されるため


『男2人』の場合(1/4)
『女2人』の場合(1/4)
『男女』ので女がいると分かった場合(2/4×50%)
『男女』ので女がいると分からなかった場合(2/4×50%)
という事象が存在することとなります。

すると
片方に女性がいるとわかっている場合にもう片方が女性である確率は
『女2人』÷(『女2人』+『男女』ので女がいると分かった場合)=1/2
となるのです。

まあ詐欺っぽい理論なのですが

No title

rot*on*li*ht
私の第一回答も間違いであったりします。

私の第一回答の不備はお気づきでしょうか。

そうです『男女』である確率と『女2人』である確率がそもそも
等しくないことを無視しているのです(笑)

No title

rot*on*li*ht
ややこしいのは
「たまたま片方が女であることを知ったが、それが男であった可能性もあった」
という表現が日本語としてわかりづらいということですね。
数学的には正しい表現なのですが、『それが男であった可能性』は『「女がいる」という情報がわからなかった可能性』のことです。

以上でよろしいでしょうか?

No title

desaixjp
狼少年さん。確率計算に当たって「女の子がいる」という条件は否定されていません。計算の際に排除されているのは「男の子という情報が出てくるケース」です。
そしてこの手の問題では、その情報が「どのように」出てきたかによって、確率が変化します。
たとえばこちら"http://philonous.blog111.fc2.com/blog-entry-17.html"とこちら"http://philonous.blog111.fc2.com/blog-entry-22.html"には「モンティホール」の例が出ていますが、「正解を知っている司会者がドアを開ける」場合と「何も知らない子供が開ける」場合で確率が違ってくることが説明されています。

No title

desaixjp
子供の性別についても同じで、片方が女の子であるという情報を得たのが、たとえば「たまたま子供の1人を見かけたところ、それが女の子だった」という場合と、「少なくとも1人は女の子ですかと聞いたらイエスと返答された」場合では、やはり確率が違ってくるのです。件の小説にはそこの説明がなく、単に「片方が女の子だと分かっている」としか書いていません。意図的な質問によって情報を得たとは一言も書いていないのです。であれば、偶然に知ったという前提にしておいて計算した方が安全です。それよりふさわしいのは「情報が不十分だから回答不能」という回答かもしれません。
また、双子の問題についてですが、問題なのは出産後の確率ではありません。問題になっている双子が「一卵性なのか二卵性なのか」を判断する確率です。これまた小説には「双子」が一卵性か二卵性かについての言及が全くありません。従って、一般的な一卵性と二卵性の比率に基づいて確率計算しています。著者が設定してもいない「一卵性」あるいは「二卵性」を、回答者が勝手に決めてしまうのは拙いからです。

No title

狼少年
丁寧な説明ありがとうございます。
やっと理解しました。
言葉の論理に気をとられてましたが、確率に関する話なのですよね。
ありがとうございます。
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