「当然ながら、なぜマセナは行って何が起きているかを確認するのにこんなに長い時間をかけたのかが問われるところだ。一部は彼が女と一緒にいたと示唆しており、他の者は彼が掠奪に加わっていたとしている」
Martin Boycott-Brown "The Road to Rivoli" p251
先月のナポレオン漫画はモンテノッテだった。ということは順番から行けば今月はデゴの戦い。そしてこのデゴの戦いにおいて、マセナはオーストリア軍の逆襲が始まってから4時間後の午前11時まで戦場に駆けつけなかった。なぜか。上のような理由が一部でささやかれている。となれば、漫画でこのネタが使われる可能性もあるのでは。
そこまでは予想していた。ただ、実際に載っていたのは予想を思い切り延長した先端部にまで到達してしまうような展開。定番の下ネタなのだが、「見ないでっ」「はあっ」のところで笑いを堪えきれなかった。いや実に大満足である。私にとってはマルモンの走馬灯以来のヒットだ。
ちなみにBoycott-Brownは「マセナが女にかまけて戦場に遅れた」説を否定している。「[女と掠奪の]いずれも4時間もの遅れを本当に説明できてはいない。(中略)午前10時になってフランス軍が崩壊したのはかなり突然の出来事であり、ただの小競り合いではなく本格的な攻勢が進展していることにマセナが気づいたのは彼がカイロから到着するほんの少し前のことだったのではないか」(Boycott-Brown p251)
それ以外のデゴの戦いについては戦報に詳しく書かれているのでそちらを参照してほしい。戦報にあるように史実ではデゴが落ちるより前にコッセリアのオーストリア軍は降伏している。漫画のようにコッセリアからデゴへ移動し、それからまたコッセリアへ戻った部隊など存在しない。あくまでこの時代のフランス軍がとにかくよく歩き回る部隊であったことを分かりやすく示すための「漫画上の技法」だと考えた方がいいだろう。
もう一つの注目点が、漫画内に描かれている地形の正確さだ。おそらく戦報作者の某有名サイト主催者が資料を提供しているのだと思うが、結構しっかりした考証がなされている。例えばコッセリアの廃城だが、こちら"http://www.napoleon-series.org/military/virtual/c_millesimo.html"には現地で撮影した写真などが紹介されている。漫画の城と比べて欲しい。デゴについてもこちら"http://www.napoleon-series.org/military/virtual/c_dego.html"に同様のサイトがあるほか、ここ"http://geog.queensu.ca/napoleonatlas/Bagetti/C440_small.htm"では当時の人間が描いたスケッチも見られる。
地形だけでなく兵士の服装も正確さを増した。何しろオーストリア兵がキャスケット"http://www.wtj.com/games/republique/uniforms/at_line_03.JPG"を着用している。残念ながらオーストリア側の将軍はボーリューしか登場せず、プロヴェラもヴュカソヴィッチもコッリも姿を見せないままだが、それでもかなり1796年ぽくなってきた。
しかし、それよりも何よりも私が驚いたのはラアルプの登場。ランヌの方はそろそろ出てきてもおかしくないタイミングだったから問題なしだが、よくラアルプなんてマイナーな人物を引っ張りだしたものだ。おまけにそのラアルプの顔が、こちら"http://mapage.noos.fr/dardelfamille/images/LaHarpe.jpg"にある小さな肖像画とそっくり。もしかしたらこれも戦報作者が見つけ出したのかもしれない。
後はシュテンゲルあたりが登場すればイタリア戦役初期の有名人は大体出揃う。ただ、作者にはできるだけそうした細かいことは気にせずに描いてもらいたいものだ。別に史実からかけ離れていても構わない。面白ければそれでオッケー。
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