意外な親戚・菌類

 「藻類30億年の自然史」を読んだ。ページをめくっていると、ドーキンスの「先祖の物語」を見て少し気になっていたことについて触れている部分があったので、そのまま衝動買い。藻類についての説明やその進化に関する解説など、素人にとってはかなり難しい記述も多かったがなかなか面白い本である。
 特に注目して読んだのが真核生物の進化に関する部分。まず真核生物の起源についてだが、この本で紹介されているのは大きく二つの説だ。一つは真核生物が真正細菌と古細菌のキメラであるというもので、もう一つはこの両生物ドメインだけでなくそれとは異なる「真核生物の先祖」が関わっていたという説だ。真正細菌と古細菌のキメラ説だけで説明がつかない最大の要因は、彼らが細胞壁に囲まれていて、よそ者を細胞内に取り込む「食作用」を持たないこと。だから食作用を持っていた別の先祖がいたのではないかという説が出てくるらしい。著者は後者の説を支持しているようだが、実際にはまだまだ論争の真っ最中である。
 次に問題となるのが、真核生物内の分類。「先祖の物語」で見かけたこの図"http://www-users.york.ac.uk/~ct505/PhD_Project5/ProtistHome.htm"と同じものがこの本にも載っており、これについての説明を読むのが購入の動機でもあった。
 生物が真核生物、真正細菌、古細菌の3ドメインに分かれることは知っていたが、このうち真核生物の内部分類については「動物」や「植物」「菌類」といった昔ながらの分類で済む。私の知識はその程度だった。だがこの図を見るととてもそんなことは言えない。植物"plants"は確かに大きなグループの一つを構成しているが、では動物"animals"はと思って探してみると、何と菌類"fungi"その他と一緒くたになってオピストコンタ"opisthokonts"なる聞いたこともないようなグループに放り込まれている。そして、それ以外に6つものグループが、これまた聞いたこともないような種名とともにあちこちに分散しているのだ。
 これは一体どういうことなのか。どうやら真核生物内でも昔ながらの分類は成立しなくなっているらしい。真核生物はある時(スノーボールアースの後?)、急激に適応放散した。その頃の真核生物は大半が単細胞生物だったのだろう。そしてその後も大半の真核生物は単細胞のままだった。ごく一部、植物や動物(正確には後生動物)などが多細胞生物としての道を歩み始めた。人間が生物の分類を始めたとき、彼らの眼に触れるだけの大きさを持った真核生物はごく限られていたのだ。今までの知識と最近の研究に基づく真核生物の系統樹にかなりの差があるのはそれが理由だろう。
 その後、2005年には国際原生生物学会(ISOP)が真核生物を大きく6つのスーパーグループに分けた"http://www8.atwiki.jp/u3002/pages/5.html"。もちろん細部には色々な議論があるものの、現時点での最大公約数的な分類はこれになるようだ。動物と呼ばれていた生き物の大半は、上にも書いたとおりオピストコンタというより大きなグループに菌類と一緒に放り込まれた。「もやしもん」で人間と菌類が仲良く話をしているのは、真核生物全体を見ればそれほど違和感のない光景になる。植物の大半はそれだけで1スーパーグループを形成しているが、一部の藻類は他のグループに入っている。
 グループを構成する生物の大半は、過去に「原生生物」という大雑把なグループに放り込まれていた生き物たちだ。人間の目から見ると彼らは「その他大勢」に見えたのだろうが、実際に生命の系統を調べてみると彼らこそ系統樹の大半を占める存在だったという訳。おまけに今でも新しい真核生物(微生物)が次々と発見されており、この系統樹がいつかがらりと変わっても不思議ではないそうだ。
 それにしても、最近の自然科学の研究速度はとにかく速い。真核生物の分類にしても詳しい人にとっては何を今更な話だろうが、私のような素人にとっては驚愕に値する事実である。そしてもう一つ気になるのは、こうした最新の知見はどの程度教育現場に反映されているのかということ。少なくとも昔ながらの五界説だけではもう限界だと思えるのだが。

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