今回はNFLのターンオーバーについて。これまでも述べたように得点との相関性が高いのはANY/A。だからANY/Aを見れば結果は大体見えてくる。もちろん完全に当たるわけではなく、しばしばANY/Aで勝っている側が試合では負けることが起きる。それをもたらす大きな要因の一つがターンオーバーだ。実際、2011シーズンに限ってみればターンオーバー・レシオと勝率との相関は0.558。オフェンスのANY/AからディフェンスのANY/Aを引いた数字と勝率との相関(0.895)に比べれば全然低いものの、そこそこの相関はある。
それだけ重要なターンオーバーだが、そのうちファンブルは実力というより運不運によって数字が変わるものだと言われている。実際にはファンブルをリカバーできるかどうかが運不運であり、ファンブルするかどうかはある程度実力に拠るそうだが、それでもツキに大きく左右される数字であることは間違いない。2011シーズンに関して言えばリーグ全体でファンブルによるターンオーバーは304回、1チーム平均でシーズン9.5回のファンブルロストがあった計算だ。
でもファンブルよりもインターセプトの方が比重は高い。2011シーズンのインターセプトは計506回、1チーム平均15.8回だ。もしインターセプトが実力によって決まる数字であれば、ターンオーバーに偶然が入り込む比率はそれほど高くはないことになる。一方、実はインターセプトもファンブルロスト同様に運不運のもたらす影響が大きいとしたら、ターンオーバーはアメフトのゲームの行方に運不運が介入する典型的な出来事となる。実際はどうなのだろう。
試合を見る限り、明らかに偶然のインターセプトというものは存在する。レシーバーが弾いたボールがディフェンダーの手に収まるといったものが典型例だろう。一方、ゾーンブリッツに引っかかってディフェンダーにどんぴしゃのパスを投げてしまった場合など、QBの実力不足によると見られるターンオーバーも存在する。問題はどちらの比重の方が高いか、だ。
それを調べるうえで、まず現在のパスルールの適用が始まった1978年以降のQBのデータを参照する。使うのはPro-Football-Reference"
http://www.pro-football-reference.com/"が算出しているAdvanced Passing table(説明"
http://www.pro-football-reference.com/about/glossary.htm")。パス成功率、Y/A、TDパーセント、インターセプトパーセント、QBレーティング、サックパーセント、AY/A、NY/A、及びANY/Aという9種類のデータについて、リーグ平均と比べてどの程度の数字を残しているかを見るものだ。100が平均、1標準偏差を15として算出しており、インターセプトとサックについては少ないほどプラスになる。現時点で2010年までのデータしかないので、同年までが対象だ。
調べたのはシーズン100試投以上のQB。n年の成績とn+1年の成績を比較し、両者の成績がどの程度相関しているかを見た。結果は以下の通りだ。
Cmp%+ 0.472
Y/A+ 0.374
TD%+ 0.258
Int%+ 0.112
Rate+ 0.336
Sack%+ 0.478
AY/A+ 0.295
NY/A+ 0.414
ANY/A+ 0.328
最も相関性が高いのはサック。ある年にサックが多かったQBは翌年もサックが多いし、逆に少なかったQBは翌年も少ない、という傾向があることを示している。サックについてはOLだけの責任ではなく、一般に思われているよりQBの責任が大きいとの指摘はよく見られるが、それを示す一つのデータとみなせるだろう。QBが変わるとOLが変わらないのにサック数が激変するケース(たとえば2008年のNew England)なども、この数字と平仄が合っている。
次に高いのはパス成功率だ。このデータはリーグ平均との相対値なので、時代による違い(たとえばWest Coast Offenseの普及)などは補正されている。従ってパス成功率の高低に一定の傾向が見られることは、QBの実力がその部分に反映されやすい事実を示していると見てもいいだろう。パス成功率そのものとゲームの勝敗との相関は高くないが、選手の実力を測るうえでは使いやすいデータなのだろう。
NY/AはY/Aより相関性が高い。サックを除いたY/Aよりサックを含めたNY/Aの方が年ごとに安定した数字が出やすいのだ。サックまで含めた方がトータルとしてのQBの能力を見るうえで便利だと言える。一方、得点との相関を高めるためにTD数やInt数で補正をかけたAY/AやANY/Aは、n年とn+1年の相関性が低い。実力ではなく偶然の要素がそれだけ含まれていることを示すと考えられる。
実際TD率やInt率を見ると、その相関性の低さはとても目立つ。一般に相関係数は絶対値0.7以上なら「強い相関」、0.4から0.7なら「そこそこの相関」、0.2から0.4なら「弱い相関」、そして0.2未満なら「ほぼ相関がない」とされている。TD率はかろうじて「弱い相関」の範疇に入っているが、Int率は「ほぼ相関なし」のカテゴリー。QBのインターセプト率が、年ごとに大きくぶれることが分かる。つまり、インターセプトをQBの実力に伴う結果だとみなすのは難しいってのが結論だ。
同じ結論は、QB個人ではなくチームに注目した分析でも分かる。1978~2011年における味方のインターセプト、ファンブル、ターンオーバー、敵のインターセプト、ファンブル、ターンオーバー、そしてターンオーバー・レシオについて、やはりリーグ平均と比較したうえでn年及びn+1年の相関係数を調べてみると以下のようになる。
Int 0.166
Fum 0.104
TO 0.178
Op Int 0.145
Op fum 0.054
Op TO 0.089
Ratio 0.113
全ての数値が「ほぼ相関なし」となる0.2未満にとどまった。敢えて言えばファンブルよりインターセプトの方が、ディフェンスよりオフェンスの方が相関性が高い(数字が比較的安定している)傾向は見られるものの、基本的にターンオーバーがらみの数字は相対的な実力とは無関係である可能性が高い。つまり、ターンオーバーはファンブルもインターセプトもかなり「運不運」で決まっている、ということになる。
念のために言っておくなら、1978年時点における1チーム平均のインターセプト数は22.8回、ファンブルロストは17.8回だった。現在の選手たちは、過去との比較において明らかにターンオーバーを避ける能力に長けている。だからインターセプトやファンブルを防ぐ能力そのものがないわけではない。ただ、そうした能力は同時代の横との比較では差異をもたらしていないだけだ。能力というよりノウハウと言う方が正しいのだろう。
NFLのゲームのうち半分近くは偶然によって結果が決まる、という話は前にも紹介している。そうした偶然をもたらす大きな要因がターンオーバーだと考えることも、どうやら可能なようだ。パスの効率性によって試合は大きく左右されるが、そこにターンオーバーという、偶然の要素で決まりながらも勝敗との相関はそこそこ高い(78~11年で勝率とターンオーバー・レシオの相関は0.602)「紛れ」が入り込むことで、勝負の行方に変化が生じ得る。それがNFLの試合なのかもしれない。
もちろんそうではないとの意見もあるだろう。実際に一部の選手は、インターセプトに関しても安定した成績を残しているように見える。たとえばBradyは9年にわたってInt%+が100以下になったことは一度もないし、McNabbもデビュー12年目に初めて100を割るまでコンスタントに100超を記録してきた。だからインターセプトが全て偶然だとまでは言い切れない。それでもインターセプト数の減少を理由に「QBが成長した」と結論づけるのが拙いことは確かだろう(FreemanやSanchezを見よ)。
何が言いたいのかというと、つまりAlex Smithの今年の成績をあまり過大評価しない方がいいってことだ。悪いことは言わん、いつでもKaepernickを先発で使えるよう準備しとけ。
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