さて今回もQBについていくつか。2000年代に入ってパス成績がインフレを起こしていることはこれまでにも指摘してきた。そうなった要因には様々なものがあるんだろうが、見落としてはいけない要因の一つとして「優秀なQBが連続して輩出した」点もあると思う。00年代のNFLは、おそらく歴史的に見ても異様なくらい優秀なQBの数が多い時代だったと考えられる。
それを数字で裏付けるのが、Pro Football Referenceが算出しているAdvanced Passing Table。どのようなものかはこちら"
http://www.pro-football-reference.com/about/glossary.htm"の下の方に載っているが、要するに同時代の平均値を100とし、1標準偏差を15ポイントと換算して当該QBの成績を指数化したものだ。
日本で馴染み深い偏差値(平均が50、1標準偏差は10)に当てはめるなら、偏差値60に相当するのが115ポイントとなる。Football ReferenceはNY/AやANY/Aだけでなくパス成功率やサック%など8つの指標についてそれぞれこの「アメリカ版偏差値」を算出している。
1シーズンだけなら平均より1標準偏差を超えるいい成績を収めるQBは結構いる。あのTrent Dilferだって2001年にはANY/Aで122ポイントという高い数値を記録しているのだ。だが、キャリア通算で115以上を記録するQBとなると極めて希少な存在だ。そういうQBこそ真に優秀なQBとみなしても問題ないだろう。得点との相関性が高いANY/Aで生涯115ポイント以上を記録したQBの一覧は以下の通り。左から名前、ポイント、NFLデビュー年、記録が残っている最終年。なお、ANY/Aのデータ自体が1969年からしかないので、同年以降にデビューしたQBのみが対象である。
Staubach 121 1969 1979
Fouts 117 1973 1987
Montana 121 1979 1994
Marino 119 1983 1999
Young 122 1985 1999
Manning 120 1998 2010
Warner 116 1998 2009
Brady 118 2000 2011
Schaub 115 2004 2011
Rivers 117 2004 2011
Romo 119 2004 2011
Rodgers 124 2005 2011
1970年代のほとんどの時期を通じてここまで有能なQBは2人しかいなかった。80年代半ばに短期間だけ4人のQBがそろった時期があったが、その後は再び減少に転じ、90年代後半にはキャリア晩年を迎えつつあったMarinoとYoungの2人しか残っていなかった。状況が変わったのは1998年だ。Peyton Manningがドラフト全体1位でプロ入りすると同時に、WarnerがNFLでの最初の仕事にありついたのだ。そして00年代に入ると有能なQBが相次いでプロ入りする。00年代後半には実に7人ものQBが集まっていたことになる。
もちろん、これらの選手のうち現役選手は今後成績が下がってこの一覧表から脱落する可能性はある。Schaubなどはけっこうギリギリだからヤバいかもしれない。でもキャリア晩年に差し掛かっているManningやBradyがここから脱落するほど酷い成績を長々と続けるとは思えないし、04~05年組4人が全員消えてなくなるとも考えにくい。最終的なキャリアが確定するまで断言はできないが、00年代(特にその後半)がまれに見るQB豊作の時期だったという結論になる可能性は高そうだ。
同時に目立つのが2006年以降にプロ入りしたQBたちの不作ぶり。この若手QBたちのうち、ANY/Aでシーズン115ポイント以上を記録したことがあるのはMatt Ryan(08年)、Matt Moore(09年)、Vince Young(10年)くらいであり、キャリア全体で見てもRyanがかろうじて107を記録している程度だ。上に紹介した有能なQBたちに比べれば明らかに格落ちである。
かつてYoungからManningまで10年以上にわたってQB不作の時期が続いたことを考えれば、現状程度の不作はそんなに嘆くことではないのかもしれない。ただ、前回も書いたとおり、この不作が続くのであれば、00年代を支えた優秀なQBたちが衰え引退していくに従って、パス成績が伸び悩み、あるいは低下していく可能性はある。
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