英軍の埃及遠征

 Piers MackesyのBritish Victory in Egypt"http://www.amazon.com/gp/product/1848854722/"読了。正直、読み始めた時はあまり期待していなかったが、意外と掘り出し物だった。この手の本によくあるように、かなり一方的な視点(この本の場合は英国側の視点)でのみ書かれた本なのだが、他ではあまり見られない指摘がある点が評価できる。
 特に前半部に描かれている英国軍のアブキール上陸作戦は実に詳細。ナポレオン戦争期における敵前上陸というのがどういうものかを知りたければ、この本を読めと言ってもいいくらいだ。もちろん、あくまでこのケースはかなり上手く行った例であり、全ての敵前上陸がこういう展開になったとは限らない。それでも上陸のための事前準備まで含め、海陸共同作戦の有り様をここまで詳しく書いた本に出会ったのは初めてである。
 後半部になると別の楽しみがある。アバクロンビーの戦死後に英国軍を引き継いだハッチンソンの悪戦苦闘ぶりがこれまた笑えるのだ。半分くらいは本人の責任(あまりに性格が悪かったため、大半の部下に嫌われていたそうだ)ではあるものの、次々と襲い掛かる難題というか予想外の事態に右往左往する様はなかなか愉快である。
 著者に言わせれば、基本アバクロンビーがまだ生きている間に行われた「アレクサンドリアの戦い」で戦役の行方はほぼ決まっていたという。だがハッチンソンが指揮権を引き継いだ時点ではまだアレクサンドリアもカイロもフランス軍の支配下にあり、エジプトを巡る争いがどう決着するかは見えていなかった。それだけにハッチンソンも真面目に考えて作戦を進めた、んだろうが、なぜかいつも意外な結果に巻き込まれることに。本人はさぞや胃が痛い思いをしたのではなかろうか。
 
 という訳で英国側に関する話には不満はないが、フランス側についての記述は極めて簡素。元となっている一次史料もあまりなく、しかも回想録が中心だ。もともと戦史関連では負けた側の史料は少ないことが多い。この本で扱っている戦場(1801年のエジプト)に関しても、そもそも使えるフランス側史料があまりない可能性はある。それでももう少し何とかならんかったんかという気はする。あくまでこの本は、英国側の状況を知るためのものと割り切った方がいいんだろう。
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desaixjp
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貴サイト"http://bonapaltisto.web.fc2.com/index.html"はナポレオニック小説のサイトだそうですが、日本ではなかなか珍しい分野だと思います。色々と大変でしょうが、ご活躍をお祈りします。
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