脚か車か・その2

 妄想続き。
 
 地球サイズの惑星の全表面を林立する六角柱が覆う。その柱は隣り合ったものでもしばしば2メートル超の高低差を持っており、おまけに死ぬほど頑丈なために工兵による加工も困難。そもそもそれぞれの柱の天辺はMBTを1台置けば他に隙間がほとんど残らないほどの狭さしかなく、スペースが限られているため土木作業も簡単にはできない。前回のエントリーで二足歩行兵器を使えるようにするための前提条件として、そんな星を考えてみた。
 こういう星で戦争をするためには垂直の高低差を無限軌道よりも簡単に乗り越えられる機構、即ち脚を持った兵器を投入するのが最適である、という結論になるだろうか。多分そうはならない。地形的条件だけで二足歩行兵器が活躍するのならここまで苦労する必要はない。
 まず最大の問題は「そもそもここで戦争する必要があるのか」という点にある。この星はどう見ても戦争には向いていない。いや、おそらく居住にすら向いていない。異様に頑丈な柱が全地表を覆っている星の上では農業など不可能だし、地下資源などを採掘することだってできない。まともな生産物が期待できないんだから、ここで生活を営むのは難しいだろう。そして、誰も居住しないような場所を巡ってわざわざ戦争をするような物好きは、おそらくほとんどいない。
 この星にある価値としては「古代文明の遺産が入手できる可能性」及び「奇妙すぎる景観を使った観光」くらいのものだろう。後者の理由で戦争を始めるのは馬鹿げている。観光は平和だからこそ成り立つ産業であり、観光収入を巡って戦争を始めるのはタコが自らの足を食うような行為である。前者なら戦争もありそうに思えるだろうが、それは「古代文明の遺産が明白な利益をもたらす」という条件が成立しなければならない。硬すぎる六角柱はおそらくあまり売れないだろう。
 ナノマシーンはその機能を制御する方法を見つければ商売の種になりそうだが、私だったら商売のためにこの星を占拠するよりもナノマシーンの複製方法を探し出す方に力を入れるだろう。複製方法さえ分かれば複製工場は別の、もっと便利は星に建設すればいい。この星を訪れる必要性が生じるのは、複製用のサンプルを集める時だけである。逆にこの星でしか複製ができないようなナノマシーンだとしたら、商品にするには使い勝手が悪すぎる恐れがある。一部好事家向けに極めて高い価格で売ることはできるかもしれないが、戦争の原因になるような巨大産業にはなり得ないんじゃなかろうか。
 星自体に戦争するだけの価値がないとすれば、後は星を占拠することによる戦略的優位性を巡って戦争が行われるケースを検討するしかない。でもこれも難しい。というのも惑星というのは恒星系の中で絶えず位置が変わってしまうからだ。スエズ運河は24時間365日、インド洋と地中海を結ぶ場所にある。だが、例えば地球と火星と太陽の位置を見れば、時には地球と火星の間に太陽が挟まることがあるし、時には地球から見て火星の反対側に太陽が位置することもある。惑星が「戦略的に重要な地点に」恒常的にとどまることはあり得ない。
 おまけに地球サイズの惑星ってことは重力加速度が9.8メートル毎秒毎秒前後かかるわけで、一度惑星表面に降りたが最後、次に重力井戸から脱出するためには大量の燃料を消費しなければならない(wikipediaによればH-IIAロケットはブースター2基の場合で総質量が289トンもあるのに低軌道に投入できる物体の質量は1万キログラム=10トンに過ぎず、総質量の95%以上が打ち上げのためだけに使われている)。そもそも地形的に考えてロケットの打ち上げ場が整備できるかどうか怪しく、まして宇宙エレベーターの建設など不可能と思えるこの星で、地表面に軍隊を投入することは事実上の片道切符を意味するとも言える。
 つまり、たとえ恒星系において何か戦略的優位性を確保できる要因があるとしても、星の表面まで降りてこなければならないインセンティヴはほとんどないのだ。どうしても必要なら星を周回する軌道あるいはこの惑星と恒星とのラグランジュ点に宇宙ステーションでも作り、そこを拠点に活動した方がよほど役に立ちそうだ。
 
 結局のところ、全地表が六角柱の星は誰にも見向きもされずに終わる可能性が高い。となるとやはり一部で妥協は必要だろう。地表に一部、六角柱の立っていない地域があり、そこで極めて貴重な鉱物資源が手に入るとしたらどうか。また「ロケット打ち上げ場が整備できるほどの広さを持ったほぼ同じ高さを持つ六角柱の集合」が地表に何ヶ所が存在するとすれば、そこから宇宙空間との連絡をすることは可能になる。資源があり、宇宙と行き来ができるなら、ここに軍隊を送って戦争をするインセンティヴも生まれるってもんだろう。ようやく二足歩行兵器が活躍できる。
 …などと簡単に話が進む訳はない。おそらく最初に行われるのは、既存の兵器の活用方法模索だろう。確かにMBTはこの惑星の大半では使用不能だが、ロケット打ち上げ場周辺では充分に役立つし、運ぶ方法さえ見つければ鉱物採掘場でも有力な兵器になるだろう。この2ヶ所は惑星上でもおそらく最も重要な場所であり、その重要な場所で既存の兵器が使えるならわざわざ二足歩行兵器の研究開発を進める意味はない。
 MBTが使えない地域でなおかつ重要な場所としては、鉱物採掘場からロケット打ち上げ場に至る移動ルートが考えられる。しかしこれまた既存の輸送システムでかなり対処は可能だ。鉱物採掘場とロケット打ち上げ場に滑走路が整備できるなら飛行機で、駄目なら輸送用ヘリで鉱物資源を運ぶのがおそらく最も簡単だろう。資源の発見からすぐ戦争状態に突入しているとしたら、これくらいしか輸送手段はない。もし戦争の前に平和な状態が長く続いていたなら、六角柱に橋脚の土台を置いた高架道路や高架鉄道網を建設し、それを使って大量輸送をするシステムが作られていることだろう。六角柱自体の高低差は車輪向けでないとしても、高架にしてしまえば車輪で充分に対応できる。
 飛行機・ヘリでも高架でもなく、脚を持つ輸送システムで鉱物資源を運ぶというケースはあり得るだろうか。おそらくない。ヘリや飛行機による輸送はかなり高くつくと思うが、それでも例えば「多脚トラック」みたいなものを開発・生産・配備し実際に運用する方法に比べれば、まだ安上がりな輸送方法だろう。鉱物資源の採掘などは経済原理で動きが決まる。高架を使うのが最も望ましく、それが無理でもなお高い価格で購入してもらえるなら飛行機・ヘリも選択肢だ。
 「いやいやいや、もし飛行機やヘリが敵の攻撃を積極的に受け、その選択肢も使えなくなったらどうするんだ。最後の手段として多脚トラックが検討されることもあるんじゃないか」との意見もあるだろう。でもヘリと多脚トラックとの間にはケタ違いのコスト差が生まれる可能性が高い。なぜならこの星以外でも使えるヘリは既に開発・生産・運用体制が整っているのに対し、多脚トラックはまず設計から始めなければならないからだ。運用コストに生産体制整備コスト、開発コスト、設計コストまで全て上乗せしたのが多脚トラックのコストなのである。そんなのに金をかけるくらいなら、飛行機やヘリの防衛に資金を投じた方が多分安い。
 脚を持つ輸送用ロボットとしてこういうもの"http://www.youtube.com/watch?v=W1czBcnX1Ww"が実際に作られているのはよく知られている。となるとこれを大型化して多脚トラックにすればいいと思う人もいるだろう。そういう人には前回紹介したまとめ"http://mltr.ganriki.net/faq09t.html#walking-weapon"に出てきたコメントを送ろう。「今研究されてる歩行理論は当然,人間以下のサイズを想定してるのであって,仮に巨大兵器に応用しようとするなら,単にスケーリングすればいいというわけではなく,物理的に制御可能な速度・角速度を考慮すると,とんでもなく愚鈍な代物になるでしょうね」。サイズを大きくすればそのまま使えるというわけにはいかないようだ。
 既存の道具があり、それを使えば一応役に立つことが分かっている。なのに「僅かな優位性がある」というだけの理由で、誰も使ったことがない、まともに作ったこともない道具を一から作り上げ、配備し、運用しようとする人がどのくらいいるだろうか。まずは使える道具を使って何とかしようとするのが普通だろう。これだけ脚を使う兵器に有利な地形的条件を整えたとしても、こうしたコスト問題まで考えれば、敢えて二足歩行兵器を使いたいと考える人はおそらく出てこない。ガンダムはいつまで経っても大地に立てそうにない。
 
 とはいえ、こういう変な星を舞台にしたSFってのを妄想すること自体は面白そう。暇つぶしには使えそうなネタだ。
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