アメフト世界大会7

 カナダ戦のスタッツ"http://www.americanfootball2011.com/en/schedule/jap-can/"を分析してみた。まず日本ディフェンスが意外に頑張った点だが、これはカナダ側の作戦ミスもあるようだ。この試合、カナダのプレイ選択を見るとラン34回に対しパスは22回(含サック)。確かに過去2試合のカナダのランはいずれも平均6ヤード強を稼いでいたし、体格差を考えてもランが有利と判断したのかもしれないが、結局この試合のカナダはランで平均3.9ヤード。大きく前進する場面もあったが、きっちり抑えられる局面も意外に多かった。
 IFAFのサイト"http://www.ifaf.info/"にある試合結果のPDFに載っている局面別のプレイ選択を見ると、特にファーストダウンでの保守的すぎるプレイ選択(ラン18回、パス10回)が目立つ。結果は、ランでは0ヤード以下5回、1~3ヤード5回、4~10ヤード4回、11ヤード超4回、平均4.9ヤード。パスは10回中9回成功、0ヤード以下は失敗に終わった1回だけで、1~3ヤード1回、4~10ヤード4回、11ヤード超4回、平均15.9ヤード。カナダが奇妙なほどにランにこだわってくれたおかげで、日本が守り易くなった様子が窺える。
 もしカナダがもっとパスの比率を増やしていたらどうなっただろう。カナダのNY/Aが9ヤードとランの倍以上あったことを考えるなら、多分日本の失点はもっと増えていた。事前に予想した通り、日本のパスディフェンスは相手にいいように切り裂かれていたわけだ。接戦になった大きな要因の一つが、このカナダオフェンスの不可解な戦術にあるのは間違いないだろう。もちろん初サックやインターセプトなど日本のディフェンスが頑張った面もないではないが、正直守りきれていたようには思えない。
 
 一方の日本のオフェンスだが、ラン23回パス35回とカナダとは対照的なプレイ選択をしている。実力で上回る相手にはできるだけアグレッシブな戦術を採用して紛れを増やすのがunderdogの戦い方、だとすれば日本のこの選択は悪くない。次々と繰り出したスペシャルプレーも、酷く不恰好で上手く行かないことが多かったが、狙いとしては正しかったと言えるだろう。ファーストダウンのプレイ選択もラン12回に対してパス13回。カナダよりずっとアグレッシブだ。
 問題はそのパスが全然ダメだったこと。ファーストダウンプレーで言えばランは平均4ヤードしか稼げなかったが、パスは13回中成功が7回だけで、平均獲得ヤードは4.5ヤードとほとんどランと変わらない水準。要するに何をやってもセカンドダウンで長い距離を残すケースが多く(19回中ロング14回、カナダは17回中8回)、それだけ相手が守り易く、味方は攻めにくくなっていた。全体のNY/Aも6.4ヤードとカナダに比べるとかなり低い。
 でもこのパスオフェンスですら実はオーストリア戦よりはマシだった。オーストリア戦の日本のANY/Aは6.85、カナダ戦は一応5.69だが最後のヘイルメアリーのインターセプトを単なるパス失敗と見なせば6.97まで跳ね上がる。オーストリアのパスディフェンスが凄すぎたという訳ではない(日本戦以外のオーストリアのパスディフェンスは全然大したことない)とすれば、これは日本側パスオフェンスが成長した証と見ていいだろう。
 その典型例が高田の成績だ。過去2試合で7.1のANY/Aを記録していた高田がカナダ戦で出した数値は(やはり最後のインターセプトをパス失敗と見なせば)7.03。他2チームに比べればずっとディフェンスが強いはずのカナダ相手にこれだけやったんだから、調子は上向きと判断してもいい。問題は、それだけ上乗せがあっても結局届かなかったという事実にある。
 
 これは数字ではなく個人的印象だが、高田のプレイスタイルは国際大会に向いていないんじゃないだろうか。彼はモバイルQBだ。今大会でもモビリティを生かして何度かビッグプレーを演じている。彼のモビリティそのものは確かに武器になっているだろう。だがそのモビリティを生かすため普段から採用し慣れ親しんでいるプレイスタイルは、国際大会ではマイナスに働いているように思える。
 カナダ戦で何度も見られたのは、パスラッシュを受けた高田がポケットを出て左右いずれかに走る展開。おそらく日本国内の試合ではこのスタイルが効果的なんだろう。脚力を生かそうと思えば敵味方が入り乱れるポケット内よりスペースがある場所に移動した方がいい。ディフェンスにとっても脅威になる。だがそれは、あくまで国内のディフェンスが相手の場合だ。国際大会のディフェンスはずっと速い。ポケットを出ようと後ろに下がったときには既に両サイドからのパスラッシャーが迫り、左右への展開は実際には必死の逃走になってしまう。そんな場面が何度も繰り返されている。
 米国ではハイスクールでQBをやっていたアスリートが大学に入ると全然ダメ、いやそもそもQBをさせてすらもらえないという事例が山ほどある。大学ではモバイルQBとして鳴らしていたのに、NFLに入ると全然冴えないケースもありふれている。高田も同じ罠に嵌っているんじゃないだろうか。彼が単なるモビリティだけのQBだとは思わないが、モビリティを生かすプレイスタイルはより高レベルの対戦相手と出会うとむしろ不利に働くという可能性はないだろうか。
 状況証拠になりそうなのが4年前の大会"http://wc2007.info/"だ。この大会では高田は2番手QBとして参加した。エースを務めたのは高田より8歳年上の冨澤。当時から高田はモバイルQBであり、そのプレイ回数を見てもパス(含サック)22回に対してランが13回とかなりランに頼ったプレイをしていた。一方冨澤は高田に比べればポケットパッサーであり、パス54回に対しランは10回にとどまっている。そしてこの両者のパス成績を見ると冨澤が上。ANY/Aは冨澤9.5で高田1.1、NY/Aも冨澤8.0で高田7.3、パス成功率(含サック)は冨澤61.1%で高田59.1%だ。
 今大会では高田はエースQBになっているが、彼の成績を2番手QBである東野を比べるとやはり4年前を髣髴とさせる。高田はパス59回に対してラン12回、東野はパス13回しかないがランは0だ。そしてモバイルQBである高田のANY/Aは7.1(ヘイルメアリーはパス失敗と見なす)、ポケットパッサーの東野は13.5となる。NY/Aも高田が6.4で東野10.4、パス成功率は高田54.2%で東野84.6%だ。やはりポケットパッサーの方がいい成績を残している。
 というか東野は回数が少ないとはいえ、異常に素晴らしい記録を残している。Football Outsidersに載っているsuccess"http://www.footballoutsiders.com/info/methods"という観点で東野の13回のパスを分析すると、実にそのうち10回がsuccessだ。単純にFD更新回数を見ても東野は13回のパスで6回FD更新(46%)しているのに対し、高田は59回中16回(27%)。現時点までの数字を見る限り、どう考えても東野の方がエース級の成績と言える。
 それでもコーチングスタッフが高田にこだわり続けるのはなぜだろう。まだ高田はポテンシャルを発揮していないと考えているのか、それとも東野に長時間プレイできない特殊な事情でもあるのか。もちろんプレイ回数が増えれば東野の成績はもっと下がるだろうが、少なくとも現時点で今大会により高いレベルでフィットしているのは東野の方。なぜ彼のプレイ回数を増やさないのか、さっぱり理解できない。
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