地域と観客動員2

 観客動員と地域性について、今度はサッカーの話を。プロ野球に比べて地域密着を非常に重視しているリーグなので、分析ももう少し詳細にやってみたい。
 まずJリーグの各クラブページ"http://www.j-league.or.jp/club/"を見れば分かるのだが、クラブはそれぞれ「活動区域」と「ホームタウン」というものを規定している。活動区域は基本的に本拠地がある都道府県。ホームタウンには色々とバリエーションがあり、特定の市、複数の市町、「○○市を中心とする全県」、そして東京都(FC東京と東京ヴェルディ)などの表現が見られる。要するに都道府県内の一部自治体か、さもなくば県全体というパターンに分かれる訳だ。
 実際の集客という面から見るとどちらのデータを重視すべきだろうか。まず「○○市を中心とする全県」(山形、草津、甲府、富山、岐阜、鳥取、岡山、徳島、愛媛、大分)は、おそらく行政(県)の支援を受けているチームだろう。中には物理的に全県から集めるのは簡単でないところもあるが、それでも個別ホームタウンより県全域が集客エリアだと見ていい。
 逆に個別の市を書いている中で、実態とは違っている可能性が高いのはガンバ大阪(吹田市)やジュビロ磐田(磐田市)、柏レイソル(柏市)。いずれも実際には特定市内だけでなく県内広範囲から集まっている可能性が高い。サガン鳥栖(鳥栖市)もこの対象だろう。逆に東京都の2チームは、ホームタウン東京都と言いながら実際には多摩地区が集客の中心になっている可能性がある。ただ、都道府県単位での集客が怪しいのはこの2チームくらいで、後は都道府県中心に考えてもよさそうだ。
 という訳で各チームの1試合平均観客動員実績と、都道府県人口(2010年の国勢調査"http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/jinsoku/pdf/jinsoku.pdf"データを利用)を比較し、人口1万人につき平均何人が試合を見に来ているかを調べる。ただ、一部の県には複数のチーム(茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、静岡、大阪、福岡)がいるので、そういうところはチーム数に応じてデータを修正する。2チームいるところは2倍、4チーム(神奈川)は4倍だ。
 
 まずJ1での観客動員を調べる(J1にいたことのないチームは除外)。対象26チームを見ると、一目で分かるのは「人口当たり動員力が高いのは田舎チーム」という傾向だ。トップの大分(172人)は無理をしすぎて実質的に一度経営破たんしたものの、動員力はかなり高い。新潟(152人)、甲府(149人)、鹿島(122人)、山形(101人)なども、計算上は1試合ごとに100人に1人以上の地元民が見に来ていることになる。娯楽が少ないせいか、出身地が雑多な都会に比べて郷土愛が強いのか、地縁を生かした人集めがしやすいのか、もしくはそれらの複合要因だろう。
 地方(三大都市圏以外)で動員力に劣るのは札幌(30人)、広島(42人)、福岡(46人)。ただ、福岡はギラヴァンツ北九州の存在によって補正をかけているものの、北九州のJ2参戦が去年からだったことを考えると実質的にはこの3都市の中で最低の動員率と見てもいいかもしれない。そしてこの3都市はいずれもプロ野球チームを抱えている。中でも福岡と札幌は地域密着の成功例だ。このくらいの地方都市であれば野球とサッカーが観客を巡って競合することになるのだろう。もっとも実数で見れば広島と札幌は山形より多い訳で、あまり田舎過ぎてもいいとは限らない。
 ワーストでは神戸(20人)、名古屋(23人)、ヴェルディ(25人)と三大都市圏のチームが並んだ。神戸はこれまた野球の影響だろうが、名古屋は野球もそれほど高い動員力を誇っている訳ではないことまで踏まえるといささか動員数が少なすぎる。ヴェルディは地域密着の失敗例としてよく挙げられるが、それでも最悪の動員力でないのは面白い。
 逆に三大都市圏で最も動員力があるのはマリノス(92人)。神奈川ならではの4倍補正が効いているためだとも考えられるが、他の3チームも動員率では上半分に入っていることを踏まえるなら神奈川のサッカー熱は比較的高いと見ていいだろう。マリノスの次は浦和(84人)、川崎(68人)と続いており、関東方面のチームが目立つ。逆に関西は最も動員率の高い京都でさえ全体18位の37人。サッカー人気に関しては東高西低という傾向は裏付けられるようだ。
 なお、サッカーは現状程度の人気であれば田舎であっても勝利を夢見られると思う。鹿島が頑張っているのが一例であり、経済力のない土地でも運営次第で強豪チームになれる。だが、サッカー人気が高まり、その結果として選手の年俸がプロ野球のように高騰したらどうなるか。どれほど動員力が高くても、地方の経済力は都市部には及ばない。ナビスコカップに優勝した大分が実質経営破たんしたように、現状でも優勝するほどのチーム力をつけるのは田舎にとってかなりの負担なのだろう。選手年俸が上がればもはや手が届かなくなる。
 その意味では浦和が決して強豪になりきれていない現状は、地域需要掘り起こしの視点からは正解なのかもしれない。もし浦和が動員力も実力もトップになればマンチェスターユナイテッドのように毎試合あの巨大スタジアムを埋め尽くせそうな気もするが、一方で他チームはほとんど優勝に手が届かなくなるだろう。ミラノやトリノという経済力のある都市ばかりが優勝するイタリアのセリエA、国内人口3位のマンチェスターと、ロンドン周辺のチェルシーやアーセナルが強いプレミアリーグ、そしてマドリードとバルセロナという人口1、2位のチームでナショナルタービーをやっているリーガ・エスパニョーラなどと同じになってしまう。
 逆にいえば浦和とマリノスのフロントが鹿島くらい有能になれば、その時点で他チームにとっては手の届かない存在になってしまいかねない訳だ。そうならない今こそ田舎チームにとっては優勝のチャンスがある。大分みたいなチキンレースになる可能性はあるものの、それでも賭けてみる価値はあるかもしれない。
 
 次にJ2(対象32チーム)だが、まず基本的な動員力は当然落ちる。最も多い甲府ですら75人と二桁にしかならない。それでも大半の大都市部J1チームよりは動員力があるんだから凄いといえば凄い。この甲府を含め、新潟(67人)、大分(65人)、鳥栖(62人)、鳥取(58人)など、こちらもやはり強いのは田舎チームだ。ただ、実数では鳥栖が5000人強。人口が日本一少ない鳥取は3414人と涙ぐましい数となる。田舎でも動員率を高めて勝負する手はあるが、田舎過ぎるとそれでも数で負けてしまう可能性があるのだ。
 動員率の低いのはFC東京(8人)とヴェルディ(10人)という東京勢がワースト2を占める。母数が大きすぎると、鳥取や鳥栖より動員数が多くてもこういう結果になってしまうのだ。それ以外にも下位には神戸(12人)や大宮(12人)など大都市部が目立つ。ただしJ2には地方でも動員力がないところも結構多い。J2昇格して間もない北九州(16人)や、サッカー人気の乏しい名古屋に近い岐阜(18人)、同県内に強力すぎるチームがいる水戸(19人)などだ。地方でなおかつ動員力が乏しければそりゃ経営も厳しいだろう。
 J2では必ずしも東高西低の傾向がはっきりと出るわけではない。どん底2チームは(2倍補正をつけた)東京だし、他にも首都圏勢で横浜FC(20人)、湘南(23人)、柏(26人)などが真ん中より下に沈んでいる。関西勢も冴えないが、西日本という切り口で行けば上に示した大分、鳥栖、鳥取の他に徳島(50人)、岡山(34人)なども頑張っている方だ。実数ではJ2でも1万人を越える札幌も、動員率で見れば下位に沈むなど、表面上の数字では見えないものも見えてくる。
 J1、J2通じて分かるのは、Jリーグのチームにはある程度の人口や経済基盤がある地域に拠点を持つチームと、そういうのが決定的に欠けているところが地域おこしの狙いで敢えてプロチームを作った事例の両方が見られるという点だ。国内都道府県を人口の多い順番に15(上位)、17(中位)、15(下位)に分けてそれぞれJリーグのチームがいくつあるかを調べてみると、まず上位は全県に計25チーム、中位は6県6チーム、そして下位は7県に7チームが存在する。上位に集中しているのは当然だが、中位より下位の方がチーム数が多いのである。中でも人口100万人を割る8県をみると、うち半分にJリーグのチームが存在し、もう1県に準加盟クラブがいる。実際にチームが地域にどれほどの経済効果をもたらすのかは不明だが、プロチームという手段に賭けてでも地域おこしをしたいと願うほど、人口下位の地方が追い詰められている様子は窺える。
 ちなみにJFLで1万人以上を集めたチーム"http://www.jfl.or.jp/jfl-pc/pdf2011/R2011A0010815J(1).pdf"は、人口で言えば上から数えた方が早い県にいるチーム。こういうところは動員率を高めれば経営的に成り立つ可能性も高いだろう。
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