地域と観客動員1

 野球やサッカーの観客動員は、それぞれのチームがどのような市場に拠点を置いているかの影響も受ける。どれほど需要喚起を図ろうとも、例えば200人未満しかいないスイスのブール=サン=ピエール村のようなところでプロスポーツを維持するのは不可能だろう。かといって人口が多ければいいという訳でもない。大都市ほど他の娯楽も多く、スポーツ観戦が必ずしも盛んに行われていない事例もある。
 日本のプロ野球については公式発表が当てにならないようなので、引き続きぴあ総合研究所が調べたといわれるデータを基に考えてみる。ちなみにネットを探したところ、2005年から2008年までのデータが見つかった("http://digest2ch-mnewsplus.seesaa.net/article/157671473.html"の793)。どうやら何試合かについて球場で写真を撮り、そこに写った数から観客数を割り出し、シーズン全体もそのペースで行った場合にどうなるかを推計したものらしい。従って正確な数とは言えないが、大雑把な傾向はつかめるだろう。
 2005年から08年までの傾向を見る限り、プロ野球の観戦者数は全体として右肩上がり傾向である。リーマンショック後にどうなったかは不明だが、少なくとも2008年頃までは動員力が増していたと考えてよさそう。この時期は実感はなかったものの景気が回復していた時期であり、そのあたりが追い風になっていた可能性はある。もう一つ注目しておきたいのが日ハムの観客動員増加だ。期間中に2回の優勝を数えるなどチーム自体が好調な面もあったが、同時に2004年の本拠地移転によって北海道での需要掘り起しが進んだ可能性はある。地域密着の成功によってリーグ全体の観客増に寄与した訳だ。
 標準偏差で見てみると、セリーグのチームは観客動員が安定しているところが目立つ。阪神は平均観客動員数3万2648人に対し、標準偏差はたった699人。読売も平均2万6592人で偏差690人だ。両チームとも期間中に優勝を果たしている一方で読売などはBクラス入りも経験しているのだが、あまりそれが観客動員に影響していない様子が窺える。ヤクルトもほとんど変動がなく、中日と横浜もパリーグの大半のチームに比べて動きが少ない。唯一大きく動いているのは2008年の広島(それまでの9000人前後がいきなり1万2000人に)だが、この年は広島市民球場のラストイヤーだったことが影響しているのだろう。
 一方、パリーグは変動の大きなチームが目立つ。安定しているのはソフトバンク(偏差546人)と楽天(443人)くらい。一方、日ハムやオリックス、西武などは非常に観客動員が安定していない。このうち日ハムは本拠地移転の影響がもろに出ていたためであり、残りはおそらく成績に応じて観客動員が変化したのだろう。西武は優勝した年には1万人を越えているし、逆にオリックスは成績が下がるにつれて観客も減っている。セリーグが固定客が多い(ヤクルトと横浜に関してはむしろ対戦相手の固定客が主な顧客になっている可能性がある)のに対し、パリーグはまだ浮動層の比率が高いのだろう。
 ただ、時間と伴にパリーグのチームにも固定客が増えていくのではないかと思われる。北海道に完全に地盤を築き上げた日ハム。やはり地域密着に取り組んでいるロッテなどは、いずれソフトバンクのように毎年安定した観客が入るようになるのだろう。また楽天も広島と同じくらいには安定する可能性がある。
 
 プロ野球の地盤は、かつてはほとんどが三大都市圏だった。広島を除く11球団が三大都市圏の6都府県に集中していた時代もある。その時代には一定の固定客を抱えていたのはおそらく阪神、読売、広島の3球団くらいだっただろう。だが、ホークスの九州移転から、より地域密着性を重視した流れがスタート。ホークスの成功によりロッテが、さらには日ハムと新規参入の楽天がよりローカル重視の戦略に切り替え、それによって掘り起こされた需要が観客動員増の流れをもたらしているのだと思う。Jリーグのスタートも背中を押す要因になったのだろう。もしこうした動きが一部球団で起きていなかったら、視聴率低下によるプロ野球への悪影響はもっと大きかったと思われる。
 とはいえプロ野球が拠点を置いているのは国内でも人口の多い地域のみだ。最も人口の少ないのが楽天のいる宮城県(234万7975人)だが、それでも47都道府県のうち上から15番目"http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/jinsoku/pdf/jinsoku.pdf"。以前より減ったとはいえ三大都市圏にいまだ8チームがある。でも横浜に身売りの話が出るなど経営的にぎりぎりであるところを見ると、現在のプロ野球の体制ではこれ以上田舎に観客動員を広げるのはもう不可能だろう。
 広島と楽天の観客動員数(広島が平均9887人、楽天が9998人)を見る限り、この2都市クラスでもプロ野球を抱えるのはかなり苦しいのが実情だと思える。福岡や札幌クラスまで行けば何とかなるが、もっと広い地域まで需要の掘り起こしを図りたいのなら体制を根本的に見直す必要があるだろう。手っ取り早いのは高コスト体質の見直し。プロ野球には1億円プレイヤーが81人いる"http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/sports/npb/487957/"のに対し、サッカーは2010年時点のJ1でたった4人"http://soccer-de.seesaa.net/article/187295528.html"。そりゃ地方都市では絶対にプロ野球チームなど持ち得ない。
 ただし、大都市圏にホームを置くことを前提としても、今よりは観客動員を増やす努力は可能ではなかろうか。まず、三大都市圏の中で本気で地域密着の努力をしている事例がロッテしかないのが問題。そのロッテは平均1万4000人弱を集めているのだが、同じ首都圏の2番手以下チームはヤクルト(1万1071人)横浜(1万465人)西武(9223人)と、いずれもロッテより明らかに少ない動員しか達成していない。同じことはオリックス(1万819人)にも言える。これら4チームがロッテ並みの観客動員を成し遂げれば、一段と観客を増やすのも可能だろう。
 後、もっと努力すべきなのは三大都市圏それぞれのトップチーム、つまり阪神、読売、中日だろう。中でも努力が足りないとしか思えないのは、世界でも都市圏として最大の人口規模を誇る東京"http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_metropolitan_areas_by_population"のど真ん中に拠点を置いている読売だ。東京都市圏の3分の2未満の人口しか持たないニューヨークでヤンキースは平均4万人以上の客を集めている"http://espn.go.com/mlb/attendance"のである。本来ならヤンキースを越えるくらいの客を動員してもおかしくない。
 選手年俸を下げられないのなら、今のような地域分布のまま客を増やす努力をする必要があるだろう。もちろん視聴率が取れるならかつてのようなテレビ放送中心の戦略も取り得るが、目先それは期待しづらい。地域需要の掘り起こしをもう一段と進め、少しでも経営安定を図るのが王道。実際、今のままでもまだ観客動員を増やす余地は残されている。今後のNPBに求められるのはそういったことじゃなかろうか。
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