宮城県海嘯誌

 探せばいろいろ出てくるという訳で、さらに前回の追加。津波ディジタルライブラリィ"http://tsunami.dbms.cs.gunma-u.ac.jp/"にも収録されているが、明治の三陸津波をもとに宮城県がまとめた「宮城県海嘯誌」という本がある。この本は近代デジタルライブラリーでも読むことができる"http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/993622"。
 同書の34-35/250に貞観及び慶長津波に関する話が紹介されている。貞観については相変わらず三台実録の引用のみ(そもそもこれしか史料がないのだろう)だが、慶長についてはも少し詳しい話が載っている。まず引用されているのが駿府政事録(駿府記と似たようなものらしい)で、「世曰、津浪云々」(34/250)という最古の「津波」という言葉の記録に加え、船に乗って流され千貫松に船をとめたという話もここにある(35/250)。
 さらに貞山(政宗)治家記録なるものにはこの千貫松について「名取郡岩沼の近所にて海辺一里余の所に御座候右の所に船を繋ぎ候と申松御座候由に付左候得ば実正と相見得申候」と書いているそうで、岩沼近辺、つまり千貫山近くに実際に船をつないだ松と呼ばれるものがあったことを示している。もっともこの宮城県海嘯誌の著者は「顧うに舟を千貫松に繋ぎしと云うは未だ遽に信ずべからず」と疑問を呈している。
 実際のところ千貫山まで津波が届いた可能性はどのくらいあったのだろうか。ヒントになりそうなのが2000年に書かれた「三陸歴史津波の規模の再検討」"http://ci.nii.ac.jp/naid/110000554353"という論文。残念ながらオリジナルには当たっていないのだが、こちら"http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/rzisin/kaishi_24/HE24_041_048_03HatoriSanriku090409.pdf"によれば津波の高さ推定において「岩沼の遡上高が異常に大きく8-13mに達した」(p42)。周辺の他地域に比べて岩沼の津波が妙に高いのはp48の図5を見ればよく分かる。
 もしこの津波の高さが、千貫松まで船が流されたという駿府政事録や貞山治家記録の記述を基に推測したものだとしたら、周囲に比べて高すぎるのが妙だ。三陸の田老などのように地形的な特徴から高くなるのは分かるが、仙台平野沿いの(阿武隈川を遡上した)岩沼の津波がそんなに高くなるのはどうにも不自然に思える。素人判断だが、やはり千貫山まで津波が達したというのは少し眉に唾をつけて読んでおいた方がいい話だと考える。
 ちなみにこの論文では「仙台港附近(若林区霞目)で6-7m」としているが、これは「慶長大津波では霞目まで水が押し寄せ、1700人を越える死者を出している」という仙台市のサイトに載っている話"http://www.city.sendai.jp/wakabayashi/c/miryoku_terajinjya_shithigoukaiwai.html"を基に算出した数字だろう。残念ながらこの霞目(今は自衛隊の駐屯地がある)に水が来たという話がどの史料に載っているのかは分からないが、市の公式サイトにあるのだから何らかのソースは存在するんだろう。慶長津波については他にいくつものソース"http://www.bousai.pref.aomori.jp/jisinsouran/ippan/ye1600/p00016.html"があるので、その中にそうした記述が見られるのかもしれない。ちなみに今回の津波でもこの霞目近くまで津波は達した。
 
 三陸だけでなく仙台平野にも大規模な津波が過去に何度も来襲していた、と指摘している郷土史家は以前からいたそうだ。こちらの記事"http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-04-06/2011040614_01_1.html"で紹介されているが、この人は1995年に仙台平野の歴史津波"http://www.amazon.co.jp/dp/483230075X"という本を書いている。地震調査研究推進本部が2005年から行っていた研究で今月にも巨大地震を長期評価の対象に加える方針だった"http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110406-OYT1T00724.htm"ようだが、それよりずっと前から懸念を持っている人はいたわけだ。災害への準備にはどうしても長い時間がかかるという一例だろう。
 ちなみに地震調査研究推進本部による宮城県沖地震についての調査結果はこちら"http://www.jishin.go.jp/main/chousakenkyuu/miyagi_juten/index.htm"を参照。
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