日記ならぬ週記である。
今週のジャンプは土曜日発売なのでアメフト漫画を最初からネタバレでいく。といっても試合場面であったのはOLが狭い間隔でセットしたという場面くらい。一般的にはOLが狭い間隔でセットするのはパスプレイの際で、ギャップからRBを出そうとするランプレイ時には間隔を空けることが多いそうだ。1941年にミズーリ大学のFaurot"http://mutigers.cstv.com/trads/miss-trads-faurot.html"が導入したスプリットTフォーメーション(通常より倍くらいの広さにラインがセットする)は、そこからオプションプレイを展開するための隊形だったようで、やはりラン向きのフォーメーションだったのだろう。
漫画でもQBを守るために間隔を狭めているようなので、基本パス用のフォーメーションだろう。QBを守るのならランプレイを使うという手もあると思うのだが、それだとライン同士の個人技決戦に持ち込めないからやらなかったと見られる。もちろん、ダブルチームもこの漫画では禁じ手。せっかくのチームスポーツなのに「チーム」としてのプレイが乏しいのはいつものことだ。気にしたら負けである。
もう一つ書評を。アンドルー・H・ノールの「生命最初の30億年」読了。カンブリア紀以前の生命の歴史を描くという、ひたすら地味な本だ。それでも色々と面白いところはある。たとえば生物の系統樹を描くと根っこに近いところには高熱の環境で暮らす生物が多いのでこれが原初の生命が生まれた時の環境だろうと思われているのだが、一方で生命の共通先祖が持っていたと思われる太古のたんぱく質は高熱に弱いものだったという説もある。だとすると生命が生まれて間もないころ、熱水噴出口周辺に適応した一部の生命を除いて他の生命を全滅させた「皆殺しの天使」がいた可能性が出てくる。地球最初の大量絶滅だ。
シアノバクテリアがかなり古い時代から存在し、進化していたというのもある意味驚き。もっと驚くべきなのは、その後長い時間にわたってシアノバクテリアがほとんど形を変えずに今も生きている点かもしれない。シアノバクテリアといえば地球の環境を大きく変えた存在(酸素を増やした)でもあるが、この本を読むと酸素は決して一直線に増えたわけでもなさそうだ。
真核生物に関してはかつて葉緑体を取り込んで共生するという現象が何度も生じたことが指摘されている。最初にシアノバクテリアを取り込んだ「一次共生」は一回きりだが、シアノバクテリアを取り込んだ真核生物を他の真核生物が取り込む「二次共生」が何度も起きたほか、ものによっては「三次共生」までやったらしい。また、真核生物の起源として、ミトコンドリアと葉緑体だけでなく「第三のパートナーがいたのでは」との説も紹介されている。生命の起源と並んで真核生物の起源も分からないことが多いらしい。
そしてカンブリアの大爆発に関する話だが、ここでは分子生物学が想定している動物の系統分岐がカンブリアの大爆発より前であったという、「眼の誕生」"http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4794214782"でも指摘されていた話が出てくる。ただし著者は古生物学者であり、この分子生物学と古生物学的知見の間に存在する矛盾について「眼の誕生」の著者アンドリュー・パーカーよりかなり深刻に捕らえているようだ。同じ分子時計を使った研究でも、より古生物学と矛盾しない説もわざわざ紹介している。それでもカンブリア紀より前に動物界の中で系統分岐が始まっていることは否定できないのだが。
そこでノールが持ち出したのはスノーボール・アース仮説。といっても全球が完全に凍結したのではなく一部に海は残ったという程度のものだ。重要なのはこのスノーボール・アースによって種の数が減ったということではなく、これをきっかけに酸素の濃度が一段と上昇し動物の生存に適した環境ができたという点。これによって動物界の生物が活躍する素地が生まれた。でも、それだけだとカンブリア紀に動物があれだけ多様化した理由が説明できない。より正確に言うのなら、なぜカンブリア紀より後には動物の「門」という大分類で新種が登場しなくなったのかが分からないのだ。
「眼の誕生」について触れたときにもこの疑問は提示しておいたが、パーカーと異なりノールは答えを用意している。それが「許容性の高い生態系」という概念だ。もっと言ってしまえば大量絶滅によって生態系にたくさんのニッチができた状態のことである。実は(スノーボール・アースとは無関係に)カンブリア紀が始まる直前に大量絶滅が生じた可能性がある。この絶滅によってエディアカラ生物群が姿を消し、動物が生存できる範囲が一気に広がり、そこに(恐竜絶滅後の哺乳類のように)生き残った動物たちが急激に適応放散したのではないか、というのがノールの考えだ。
大量絶滅で空いたニッチは、「資源をめぐる競争がめったにないか厳しくないような生態環境」である。そしてこうした許容性の高い生態系では「機能性の低い新種」も生き延びやすい。そして、生き延びている間に機能性の低かった新種も自然淘汰によってより機能を高めていくことができる。そうやって生態系のニッチはきっちりと埋められていく。一度ニッチが埋まるとその後に登場した「機能性の低い新種」はそもそも生き延びることができない。既得権益を持つ先行者ががっちりとニッチをつかんで放さないからだ。動物に変化をもたらす変異はカンブリア紀以降も起きているが、彼らはカンブリア紀の先達に比べて圧倒的に不利な環境におかれており、結果として新たな分岐は起きなくなっているわけだ。
科学においては新しい知見がどんどん得られている。古生物についてもしかり。古い情報に安住しているわけにいかない以上、これからも折に触れてこの手の本に目を通す必要があるだろう。
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