QB関連のデータをひっくり返していると、時々ある現象に遭遇することがある。例えば以下のデータがそうだ。左からパス成功率、TD数、Int数、レーティング、ANY/A。
QB1 55.3 30 27 71.1 5.15
QB2 61.1 41 18 89.6 7.31
いずれも複数年のデータを足し合わせたものだが、QB1の成績は褒められたものではない。先発の座も覚束ない程度の数字だ。一方、QB2は一流QBの成績である。ANY/Aだけ見れば超一流と言ってもいい。問題は、これが2人のQBの成績ではなく、1人のQBの異なる時期の成績であること。QB1はChicago時代のKyle Orton、そしてQB2はDenverのMcDanielsの下でプレイしていた時の彼の成績だ。
McDanielsは第13週が終わった後で解雇された。そして第14週、Ortonの成績はパス成功率46.3%、0TDに3Int、レーティング27.1と惨憺たる有り様だった。Ortonの怪我もあり、Denverは第15週の先発を新人Tebowに決めた"
http://www.nfl.com/news/story/09000d5d81d006e7/article"。Tebowの成績次第ではOrtonの今後にも影響が及びそうである。
OrtonにとってMcDanielsは成績を向上させる「魔法の杖」だったのではないか、というのが今回の主題。カレッジでは並のQBがコーチの作ったシステムによって強烈な成績を積み上げる事例はいくつも見られるが、それと同じ現象が実はNFLでも(カレッジほど派手ではないにせよ)起きている可能性がある、ように感じる。Ortonはそれを示す最近の事例のように思えるのだ。
Ortonの代わりにDenverからChicagoへ移ったJay Cutlerも、Ortonほどではないがそうした傾向が見られる。Denver時代にはレーティング87.1、ANY/A6.40だったのが、Chicagoへ行くとそれぞれ81.2、5.16へ成績が低下した。彼がDenverにいたときは別にMcDanielsにコーチされていたわけではないが、他に誰か(もしかしたらOCのDennison"
http://en.wikipedia.org/wiki/Rick_Dennison")Cutlerの成績が上がるような攻撃システムを構築していた可能性がある。QBにとって「魔法の杖」の役割を果たすコーチと離れた結果、Cutlerの成績が下がったのではないだろうか。
どうもDenverには伝統的にQBの成績を引き上げる能力を備えた杖役のコーチがいるようだ。CutlerとOrtonだけではなく、例えばJake PlummerもArizona時代のレーティング69.0、ANY/A4.37がDenverに移籍した後には84.3、6.32に跳ね上がっている。逆にBrian GrieseはDenver時代に84.1、5.58だったのが他のチームに移った後は80.6、5.05と微妙な差ではあるが数値が下がっている。
QBの成績にコーチの能力が影響することは否定できないだろう。何といってもチームスポーツなのだし、どんなチームを構築してどのようなオフェンススキームを採用し、具体的にどんなプレイコールをするかによってQBのプレイ結果も変わってくる。Manning兄のようにプレイコールをある程度自ら行うようなQBはごく少数であり、多くのQBにとってはコーチとの相性は重要だ。それが時として、同一QBとは思えないような成績が生じる理由ではないだろうか。
Denver以外にそうしたQB成績インフレを起こしやすいチームではないかと私が疑っているのはPhiladelphia。例えばA.J. FeeleyはPhiladelphiaではレーティング78.6、ANY/A5.62だが、Miamiにいた1年間は61.7、3.44だった。Michael VickはAtlanta時代に75.7、4.92だったのが、Philadelphiaに移ると(プレイ回数が少ないため額面通りには受け取れないが)103.9、7.92というとんでもない数字になっている。Donovan McNabbはPhiladelphiaで86.5、5.97だったがWashingtonでは(これまたプレイ回数は少ないが)77.1、5.33に低下。とうとうベンチ送りになった"
http://www.nfl.com/news/story/09000d5d81cfa243/article"。
こうした成績の急変動(単なる変化ではなく、それまでと断絶したような大幅な変動)を見るとどうしても思い出すのが、前にも書いたDaunte Culpepperだ。2004年までの彼の成績はレーティング93.2、ANY/A6.49と立派に一流QBの成績だった。この時期にレーティングで彼を上回ったのはManning兄、Warner、Penningtonといった錚々たるメンバーくらい。同期のMcNabbはもとより、FavreもBradyも及ばないほどの成績だ。
だが、2005年から彼の成績は急低下。05-09年の成績はレーティング71.7、ANY/A4.25となり、Tarvaris Jacksonすら下回る有り様だ。一流QBどころか先発のレベルにすら達しない状態で、もはや昔の面影はない。まるで別人のようなこの成績急落は、一体なにがもたらしたのだろうか。
よく言われているのが「Mossがいなくなった」ということだが、BradyのようにMossがいなくなっても成績があまり変わらないQBがいるところを見るとそれだけでは説明として不十分な気がする。もしかしたら2005年のMinnesotaにコーチングスタッフの変化か、あるいはオフェンススキームの大きな変更でもあったのかもしれない。残念ながら私はMinnesotaファンではないので詳しいことは分からないんだが。
同じように優秀なQBが急におかしくなった事例は他にもある。Marc Bulgerは02-06年にレーティング91.3、ANY/A6.27を記録しながら、07-09年には70.9、4.31まで暴落。Carson Palmerも04-07年の90.1、6.33が08-10年(第14週まで)には79.4、5.07に下がっている。彼らの成績低下の背景に、コーチングの変化はなかったのだろうか。
もちろんコーチングではなく他の理由、例えば怪我が原因という可能性も十分にあり得るだろう。あるいは単にそれまでの数年間が幸運だっただけで、ある時急に化けの皮がはがれただけかもしれない。「Mossが原因」説のように、他の選手の異動が影響を及ぼした可能性だって全面的に否定はできない。OCやQBコーチの異動、選手の怪我の経歴といった、あまり見かけないデータを時系列で調べられればもう少し色々なことが分かるかもしれないが、どうもそれは難しそうだ。
ちなみに怪我といえばAaron Rodgersが脳震盪で今週は欠場する"
http://www.nfl.com/news/story/09000d5d81cffb68/article"。脳震盪といえばSteve YoungやTroy Aikmanをはじめ何人ものQBを引退に追いやった恐ろしい怪我だ。Rodgersは今シーズンで2度目の脳震盪。正直、彼の健康だけ考えるなら今シーズンはもう試合に出ない方がいいように思えるが、ファンとしては彼がプレイする姿を見たいのも事実だろう。我々が見ているのは「現代の剣闘士」の試合であることを忘れないようにしたい。
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